ハイキュー‼︎ 第232話「戦線」

潔子さんのモノローグからスタートしているように、今回は正真正銘の「潔子さん」回。春高初戦前に彼女のエピソードが語られるとは、ちょっと予想してなかった。
 
 
潔子さんが元ハードル選手だった、というのは先週やっちゃんとの会話の中で語られたんだよね。ちょっとここまで掘り下げがあるとは思わなかったけど。ハードル経験者は転倒の瞬間の潔子さんの感覚に共感したりするのかな。「ただ雲がゆっくりだったから ああ転んだんだって思った」というモノローグがすごく爽やかで、それでいて他人事のような表現がまた切ない。転倒に気付いたその瞬間、それまで走っていたことがもう過去のものになってしまっているようなそんな感じ。
 
 話はいったん現在へ。日向のシューズ紛失に責任を感じている山口のことを思うと本当に胸が痛い。先生が落ち着いて対処してくれようとしている様子とか、スガさんが普段通り「だーいじょぶだ 死なねえから」なんて言ってくれているのがすごく素敵。そして影山が冴えてる。強化合宿編以降の影山ってやはり少し変わったなという気がする。どうなんだろう。少し前の影山なら、本人は落ち着いてはいるけど「日向このボゲェ!」なんて怒号を飛ばしているような印象もあるけど。そして山口、ガラケー。分かる。
 
 
子どもが取り違えたシューズを潔子さんが取りに行くことに。ここの潔子さんとやっちゃんのやりとりが本当に素晴らしかった。「私足にも体力にも自信あるの」とニヤリと笑う潔子さんの表情もいいし、先生がピンと来ていないのに対して、やっちゃんだけが昨晩のお風呂での会話を思い出して「わかって」いるのもいい。そして、「一人になったら心細いよね」「だから慣れてね」「ハイ…!」ここが本当によかった!これからのやっちゃんの状況というのを示唆してる。潔子さんが引退して1人になった時のやっちゃんのことを考えて、「だからこそ」慣れてねと託すその信頼感にウルっとくる。「だから」という言葉の選択が肝だよね。「でも」慣れてねではなく、「だから」慣れてね。ここ数週は特に大地さん→縁下で下の世代への継承が為されているのをひしひしと感じたけど、マネージャーもまた同じで、着々と引き継ぎのための心の準備を2人ともがしてるんだなって。いつもならアワアワしてるやっちゃんも何かを感じ取って頼もしく返事をしているのがいい。それと、3年生が全く潔子さんの心配をしていないのも。最高。スガさんの「まあ清水だし大丈夫だべ」とか。3年間の絆を感じるよね。しっかり大地さんに「試合に集中」と言わせているのもいいし。3年4人がわりと一貫してフラットな関係性でいるのは気持ちいいなーと思う。
 
 
「練習して練習して練習して積んで来たものは 想像以上にあっけなく終わる」「その事実を私は自分で思っている以上に恐れていたのかもしれない」というモノローグとともに潔子さんの入部時の回想が挿入される。ずっと練習してきても、たった1台のハードルを越えられなかったことで終わってしまうという事実。これは分かるなと思った。陸上はこれがかなり顕著だろうな。そして潔子さんはバレーボールのルールやマネージャーの覚えるべき職務を自己流で覚えたっていうのがすごい。そうやって新しいことを勉強したり打ち込むのが好きなんだろうね。そしてそのモノローグもすごく共感できる。「何かに打ち込んでいる時の心地よさ」「でもどこか他人事」「自分は最前線で戦っているわけではないという安堵」分かるな〜。競技に向かう覚悟も練習量も何も背負わず、言わばリスクゼロで、結果に対する喜びや興奮、感動を同じように自分のものとして手に入れるズルさ、みたいなのは自分の学生時代を振り返ってすごく思う。で、このモノローグの後に、回想とともに「でもチームメイトは徐々に他人ではなくなった」というように続く。そして現在の潔子さんに場面が移る。映画のような綺麗さ。回想が3年間を過ごした同期と共に潔子さんの心境の変化を映しているのがグッとくる。潔子さんが選手たちと同じ表情しているのがもう何より「他人ではなくなった」証明という感じで。すごくいい。
 
 
一方東京体育館の烏野メンバーたち。初めての体育館で、コーチが選手たちにとっては不慣れである床なんかの設備について言及しているのが新鮮且つリアル。そして電光掲示板の表示で、また一校が「春」を終えてしまったんだなと分かるのが切ない。烏野は県予選を頑張って勝ち抜いてここまで来たけれど、こんな風に「あっけなく終わる」んだなと思いを巡らしてしまう。そして現在の潔子さんのモノローグへ繋がっていく。この流れが秀逸すぎる。「マネージャーの仕事はなんとなく始めたもので、もともとマネージャーはいなかったんだし、私が抜けても元通りになるだけ」だと思っていた。そして回想される、2年生・1年生の姿。IH予選敗退の悔しさに泣いた日向・影山の姿を見た潔子さんは「繋がなくてはならない」と考える。そしてそのために自分の出来ることとして、「託さなければならない」と考えてやっちゃんをマネージャーに引き入れる。
 
 
「練習して練習して練習して積んで来たものは想像以上にあっけなく終わる」「それがどうした」「敗北を確信しているわけじゃない 勝利を確信しているわけじゃない」「挑まずにはいられない」「私はコートに立たないしユニフォームを着るわけでもない」「でも今 ここが私の最前線」本っっっ当に素晴らしかった。中学時代の経験から、「あっけなく終わる」ことを恐れて、なんとなくで、そして「どこか他人事」で始めたマネージャーというポジション。しかし時と共にチームメイトは他人ではなくなっていき、未来へと繋がなければ、託さなければという思いを抱くようになった。そんな彼女が、「練習して積んで来たものがあっけなく終わる」ことを「それがどうした」と笑って蹴散らしてくれる強さに涙が出た。これがまたいい顔してるんだよね。例えば「努力は必ず報われるだろうか?」というような命題はずっとずっと前から存在していて、結論としては「必ず報われるわけじゃない」と言えると思う。それは必ずしも冷めた見方だというわけではなくて、ただの事実として、やっぱり努力は報われるとは限らないんだと思う。それを否定するんじゃなくて、そういうものとして認めた上で「それがどうした」と笑い飛ばしてくれる、それが本当によかった。努力は必ず報われるよ、とかって言われるよりずっと心強い言葉だと思う。敗北も勝利も確信しているわけではなく、ただ挑まずにはいられないという彼女の言葉は、他でもない烏野のコンセプトと合致していて、彼女もまた間違いなく烏野で戦う1人なんだと強く感じた。そして過去の「最前線で戦っているわけではないという安堵感」へのアンサーとしての、「コートに立たずユニフォームも着ていない自分が立っている今ここが最前線である」というモノローグ。先週のお風呂でのやっちゃんとの会話で「勝って明日もこのお風呂に入ろう」というのがあったけど、これもまたこのモノローグに繋がっているのかな。すごく意地悪な見方をしてしまえば、「勝って明日も」とは言うけれど、マネージャーは実際自分がやるわけではないしなぁ、というようにも考えられるわけで(自分が学生時代そうだったからこそ余計にそう思ってしまう)、それに対するアンサーとして、「間違いなく今、最前線で戦う彼女」のモノローグになってるのがよかった。コートに立つわけじゃなくても、マネージャーも戦ってるし、勝つために全力を尽くすってことを考えてるんだなって改めて。
 
 
ようやくたどり着いた春高の舞台。1度負ければ正真正銘そこで終わり、という試合をこれからいくつも見ていく、その今、このエピソードが入ったことってやっぱり意味のあることだし、強いメッセージが込められているように感じた。これから春高が始まって、「積んで来たものがあっけなく終わる」瞬間はやはり描かれるんだと思うし、それを前に、「あっけなく終わる?」「それがどうした」「挑まずにはいられないでしょ?」って、そう言ってくれたのがぐっときた。そして何より、現在の潔子さんと過去・中学時代の潔子さんがハードルを「飛ぶ」絵が見開き計4pで描かれたけど、この絵の力が本当にすごくて。強くて美しい。過去のいろんなものを飛び越えていくことができたんだなと、涙出た。そして2階席から日向のシューズをやっちゃんに投げる潔子さんの真下には、烏野の「飛べ」という横断幕。上手すぎる。当然彼女のハードルの意味での「飛べ」もあるし、この横断幕自体彼女がIH前に思いついて準備したものでもあるというエモさ。そしてまたいい笑顔してるよねー。からの、3年生への無言ガッツポーズに滲む信頼感と日向山口への無表情ピースがお茶目でかわいい。日向に無事シューズが渡り、いよいよ初戦スタートというところで引き。
 

マネージャーにこんなにスポットが当たるというのも嬉しかったなあ。「部のマドンナ」のような捉え方をされやすい潔子さんだけど、「自分の戦い」としてマネージャーをやっていてくれること、そしてマネージャーでの経験が彼女を成長させたことなんかがたまらなく嬉しかった。彼女の人生にとってマネージャーの経験はしっかり意味のあることなんだなと思えて安心した。ほんと今週は最高!来週ついに試合が始まる。