ハイキュー‼︎第331話「エースのめざめ」

赤葦くんの回想から。赤葦くんについて知らないことが多すぎて、この最初の独白からそうか、そうだったのかと飲み込むことしかできない。だけどバレーを好きでも嫌いでもないのに一生懸命やっていたというのはああ彼らしいなとすごく思った。真面目な子なんだよなあただひたすら。そしてこんな風に「部活」をやっている子ってきっと少なくないんだろう。赤葦くんが「手堅く・ミスなく」というプレースタイルであるのは、元々の性格と中学時代の環境が重なったものだとも思えるんだろうか。仲間の多くは怒られないためのプレーをしていて、赤葦くんもそうだったのかははっきりとは分からないけど少なくとも「とくに疑問は持ってなかった」。そういう環境が良い・悪いではなくて、そういう「正解からはみ出ないプレー」を是とする環境にいて、やはり多かれ少なかれ今の彼を形作る一つの要素になっていることは間違いないだろうと思うし。


友人の問いかけに対する答えが何というかずっとふわふわして、受動的で、流れに身をまかせるままという感じで、それも分かる、と思った。きっとある程度のことは一定以上にできてしまう子で、だけどそこに特別な熱を抱けるものにまだ出会っていなくて、だから目の前に広がる(きっと周りの子たちと比べてもたくさんの)選択肢に対して自分の感情によって選ぶってことを知らなかったんじゃないかなあ。「推薦をもらっているから」というすごく合理的で「正しい」判断のもとで梟谷に傾いていた、というただそれだけだった。のが、出会ってしまう。「衝撃的だった」と言いながらしら〜〜って顔をしている赤葦くんに笑ったけど、外から見ても気付かないけれどこの時彼の人生が変わってしまったんだなと、読者だって今週を読んで初めて、モノローグがあって初めて知ることができたわけで、木兎さんはこの時自分が1人の人間の人生を変えてしまっただなんて知るはずがなくて…きっと知ったって何があるというわけではないしそれもまた木兎さんらしいし。赤葦くんのこの「衝撃」の出会いが一方的なものであったということがやはり「スター選手」との出会い、という側面を際立たせるように思う。この中学時代の赤葦くんにとって木兎さんが、「当たり前」とか「普通」をぶち破って来るようなそんな衝撃的な人であり出会いだったんだということ、そして確かに彼の世界を広げた人であったということ。そうだよな、そんなの「スター」だよなあ。知らず知らずの内に他人の人生を変えてしまってるんだもん。


白布について「エースを追いかけて」白鳥沢に決めるという物語を描かれたから、赤葦くんはどうなるんだろうなとずっとずっと考えてきた。そして今回赤葦くんについて描かれたものというのが、梟谷がはじめから選択肢のひとつとしてあって、合理的な判断のもとで「推薦をもらっている」梟谷に傾いてもいて、だけどこの出会いと衝撃と、(きっと)はじめて彼の中に生まれた熱が確実に最後の決め手・きっかけとなって梟谷を「選んだ」というもので。もうこれが本当に彼らしいし、だけど中学時代の彼を思えば確かに踏み出した新しい一歩でもあって、とにかく大好きだと思った。


自己紹介をする赤葦くんの「セッター」という言葉に反応して早速練習に誘う木兎さん。部内にもセッターの子は何人もいるだろうけど、木葉の反応なんかを見るに、例の「際限ないから皆早々に逃げるんだよ」っていうのはこういうところなのかな。木兎さんに練習誘われた、って喜んで自主練に応じたらあんまりにもキツくて際限なくて、実際に断られたり逃げられたり、ってしてるのかも。


赤葦くんも相当キツそうにしてるけど、この子もまた「意外と変人」で、最後までずっと木兎さんの練習に付き合い続けたのが赤葦くんだったのかもね。何ていうか、メーター振り切ってる木兎さんに追いつかんと必死に食らいついていく、というよりはこの子もこの子でちょっとズレてて、あくまで「楽しい」って自分本位な理由があって自然とついていけたというのが、いいなあと思った。赤葦くんと木兎さん、全然タイプの違う2人で基本ズレまくってるんだけどたまに妙にぴったり重なる部分があるなと思うのはこういうところだよね。


全国常連の強豪に推薦をもらうほどに上手かったはずの赤葦くんだけど「ストレートに人に褒められる」ことは珍しかったんだな〜〜。これもモノローグと表情が全然噛み合ってなくて笑ってしまったんだけど、何というかこのモノローグの意外なほどの幼さ(この間まで中学生だったことを考えればそんなにおかしくはないのかもしれないけど)が妙に胸に来て、平坦だった赤葦くんのバレーボール人生が、スター選手との出会いによってどんどん変わっていくのを感じる。木葉・小見とのやりとりもかわいかった。副主将・しっかりものの2年セッター、という側面もそれはそれで間違いではないというか実際そうなんだろうけど、だけど1番近くで見てきた先輩たちが「コイツも意外と変人??」と、何ていうのかな単なる後輩ではなくて、赤葦くんという人間をぐっと内側に引き入れたような感じというか。木兎さんありきの人物像ではなくて赤葦くん自身の話になっている感じ。


「元々得意だったクロス打ちをブロックにガンガン止められて」からの木兎さんの「ちょっとだけスパイク練付き合って」が、「ちょっとだけ」ではないことを赤葦くんはもう知ってる。だけどきっと、「ちょっとじゃねえ」とはもう言わないんだよね。赤葦くんが木兎さんを「本気には本気で応えなくてはと思わせる人」と語っているのにすごくぐっときた。好きでも嫌いでもないのに一生懸命やれる赤葦くんはやっぱり真面目だし、「本気で応えなくては」と意識的に応じるところもきっとあっただろうけど、だんだんと自分も本気になっていって、木兎さんとしても(特別意識はしてないだろうけど)常に同じ熱を持って本気で返してくる奴が隣にいた。それは赤葦くんだけではなくて部のみんなそうで。強豪校っていう環境だからそもそもみんなモチベーションも技術も高いっていうのはそりゃめちゃくちゃあると思うけど、やっぱり木兎さんの「本気には本気で」と思わせる資質というのもチームを底上げするようなパワーを持っていたんだなと思う。夏合宿の時にも「敵味方関係なく士気を高めてしまう選手」というように言われていたけど、先日の胸部レシーブも含めて(笑)、周囲を巻き込む魅力もパワーもある選手なんだろうなと思う。


季節は変わり。ブロックフォローの練習をする小見が次の大会ではしっかり上げているのがさらっと描かれているのも良かったなー。同じブロック相手に再びクロスを止められるも、ストレートでぶち破る。普段は感情と表情がいまいち一致しない、「テンションの低い」赤葦くんが、バレーを好きでも嫌いでもなかった赤葦くんが、瞳を潤ませて「俺達が世界の主役」だと独白する。もーーーこれに涙が止まらなくなってしまう。冷静で真面目で現実的なこの子が、「世界の主役」なんて、めちゃめちゃに主観的で感情的でおっきなおっきなことを言うのが、本当にすごい。きっともう「好きでも嫌いでもない」なんて言わないんだろう。俺達が世界の主役だなんて言ってしまうくらい、バレーに打ち込むようになったことも、それほどの変化を木兎さんや梟谷の子たちが与えたのだということも、その全てがあの「スター選手」との出会いから始まっていることも、何もかもすごい。赤葦くんが「俺達が世界の主役」だとそう思える高校時代の一瞬を、木兎さんと共に生きている/生きていたこと、今そういう高校時代の・高校バレーの真っ只中にいることがとにかく眩しくて仕方ない。本当に本当にすごいシーン。大好きだ。


やはり「想定内」のツー。セッターにとって「本来の仕事」ではないツーアタックを選択することに伴う責任みたいなものには以前もスガさんが言及していたけど、彼の性格とかプレースタイルを考えてもこの「大罪」という言葉に乗っかってるものの重さというのをひしひしと感じる。だけどこんな苦しい中でも、すっと普段通りの表情を作って自分からチームメイトに声を掛けるところ。あくまで感情に振り回されずしっかりチームの方を向いていて、本当に強いし、正しい。しかし木兎さんの受け止め方はまた違ったようで、ここが今週最後に繋がってると思う。それは何週か前の尾長くんの失点に対するリアクションとの違いというのを見てもすごくよくわかる。


研磨の解説。「赤葦が一発目木兎さんを使わない」ところまで相手は想定してたんだな…想像以上だった。木兎さん潰しの方法のひとつとしてセッター潰しに勤しむ臼利、「ハツラツと性格が悪い」がめちゃくちゃ言い得て妙。笑 あとこういうのを作中でチームメイトに言わせているの、やっぱり優しいよなと思う。臼利ヘイトが高まりそうなところでそれを言われると、それが「個性」に落ち着くというか。


ブロックを意識するあまりトスが低くなってしまう。そしてわざと同じ攻撃、まじで性格が悪い!笑 褒め言葉です。これ決まったらいよいよキツイ、というところで木兎さんがブロックへ入り、そして強烈な一発を決める。そして続く「対木兎シフト」に、超インナースパイク。ヒーローとしか言いようがないよ、こんなの。かっこよすぎるじゃん。土壇場でのエースとしての力をこれでもかと感じた。そして、木兎さんは宣言する。


ついについに、一選手として・一エースとしてという方向に向かっていくんだな。ずっとずっとこれが見たくて、私たちが物語として追うことのできる高校生のうちにその時を見届けたいと、木兎さんにはその課題を克服してから高校バレーの先に行ってほしいと、本当にずっとずっと思っていた。だから本当に本当に嬉しくてたまらなくて、そして、これは「梟谷の」エースでなくなる未来をまだ受け止める自信のない読者のエゴでしかないけれど、やはり、さびしい。


だけど、こんな木兎さんだからこんなに好きなんだよな〜〜!さびしいって思う読者の気持ちなんか(そしてもしかしたら似た感情を抱くのかもしれないチームメイトのこともまた)置いてけぼりにして、前だけ見ていてほしい。まあ言われなくたってそうするだろう。こういう子だからきっとこんなにも人を惹きつけるし、本気にさせるし、めちゃくちゃに強い。


「この試合を3年生の最後にはさせない」、だから落ち着け、と普段通りの自分を作ろうとする赤葦くんを見て、木兎さんの中に何か生まれたものがあったんじゃないかなあ。だからああいう顔をしてたんじゃないだろうか。そしてその木兎さんは「3年生の最後にはさせるわけにはいかないから普段の自分に戻ろうとする」赤葦くんと対照的に、「あと何日かで最後が来るから普段の皆のおかげのエースをやめよう」。2年生と3年生の違いっていうのは当然めちゃくちゃあるけど、今の赤葦くんに必要な成長というのを考えてみても、赤葦くんにとっての全てのはじまりである「スター」から最後に受け取るものっていうのがこの試合か、その先かでまだあるんじゃないかな、あったらいいなとやはり思う。


プレーの面で・精神的な面で、互いに支え合う部分を持って高校バレーを共に過ごした赤葦くんと木兎さんが、あと数日でお別れをすることになる。その先で、2人それぞれが互いの場所でバレーボールをやっていけるようになるためには、木兎さんは(仲間のおかげの)というかっこ付きのエースから進化しなくてはいけないし、赤葦くんもまた「ミスなく・手堅く」というのが彼の強みであると同時に、その先へゆくのを阻むものになってしまっているのだとしたら(「嫉妬しますね」には確かに何かが彼にブレーキをかけているのを感じた)、やはりそこから一歩踏み出す時が必要なのだと思う。今を勝つために、そして同時にその先の未来をそれぞれが勝っていくために。そういう未来を信じることができるように。そこに向かうための最後のきっかけが「木兎さんがただのエースになる覚悟を持つこと」だったんじゃないかな。


何というか、何をどれだけ喋っても足りないな、今週は。さびしさと喜びと期待が全部同じだけあって、もう気持ちがめちゃめちゃ!笑 幸せな悲鳴だな〜〜。自分の中にずっとずっと残る1話だと思う。宝物です。