ハイキュー‼︎第268話「孤爪研磨の根性論」

今週のハイキュー。孤爪研磨の根性論。1セットのTOで既に早流川の思惑に気づき、対策を立てている音駒と、対照的に2セットのマッチポイントで勘付いて「しまい」、しかし疑心暗鬼というところに留まる早流川、という構図は、確かにそこにある実力差というものを示唆しているように感じる。1人気付かず解説を聞いているリエーフ。彼らしくありつつも、この異質さが音駒にとってもう一歩を叶える存在であることも感じさせる。「慣れてみせますよ」とかっこよく発言したかと思えば「レシーバーの皆さんが」と続ける黒尾の姿っていうのは東京予選の時点ではなかなかない描き方だったかな、と思った。あの時の黒尾は、当然仲間を信頼はしつつも、主将として、MBとして、何より紙一重で夢叶うか破れるかというところにいて背負っているものの大きさというのをすごく感じたんだけど、今回積極的に仲間に託していける、発言できるというのはまたいいなと思った。そして「過保護上等!」と発言する夜久さんに痺れる。音駒はここで、チームの要のセッターが狙われたからといってチームとしてのコンセプトを崩すことはしないんだね。ある意味で開き直りというか。でもこれまでの描写があるからこそ、夜久さんが過保護を全うできることも、そこまでしてでも研磨に繋げることが音駒の戦い方において重要なことであるというのもよくわかるから納得。確かに音駒はその選択をしていかなきゃいけないだろうなって。で、更に早流川の策に乗った上で、自分の負担になること前提で新たな策を持ち出す研磨。これもいいなー。チームの「過保護」っぷりに支えられるだけでなく、それをも利用してやるという気概も、具体的な方法につなげる頭脳も持ち合わせているからこそ、研磨はこのチームの要であり、セッター第一のチームの雰囲気が出来上がっているんだなと感じる。そのことを研磨が「みんなの方が大変だよ」と自覚しているのも良かった。この試合で感じるのは、研磨は自分が想像していたよりずっと人間らしいということだなー。そして「他に要望は?」と尋ねる夜久さんの男前っぷりがすごいし、「高めに」という言葉を出すのも、古舘先生の中にあるこの世界のバレーボールの標準の高さとかを感じる。こんなふうにさらっと、「高く」セッターに繋げる、スパイカーに繋げる、という言葉が出てくるので、段々とバレーボールの経験のない自分にも「高めがいいんだな」という感覚が染み付いてきているような感じ。


そして、策に気づき疑心暗鬼の早流川に対する監督の態度というのもまたよくて、思考のあまり迷宮入りしてしまいそうな選手たちを前に、大丈夫だと安心させる力強い一言。折れない早流川に嫌そうな顔の研磨。これいいなぁ。ちょっと戸美の感じがある。「ここに安定した勝利なんてない」は、烏野と稲荷崎の試合のことも含んでいるよねー。(いつか春高のトーナメントを調べた時に、3年くらい連続で第1〜4シードのうち半分の2校が初戦敗退していて驚いたことがありました。)


孤爪研磨の根性論。このページの言葉1つ1つがハイキューらしくてほんとに素晴らしかった!「根性とは、精神と体力を鍛えてきた者が満を辞して発動できる最終奥義であり、自分には使えない必殺技である」。まず、「根性」というような精神論はやはり現代では嫌われるものだし、時に悪ともされる。それは私自身もすごく分かる感覚で、ハイキューではこれまでずっと、「根性」「気合い」が試合を動かす、勝利に導くといった描き方は絶対にしてこなかったんだよね。「気持ちが強い方が(その気持ちだけで)勝つ」なんてことはない、というように。その中で、それでも根性というものを絶対に否定しない。それも研磨という、ハイキューの中でも根性の対極にあるように思えた子がこれを言うというバランスも好き。で、根性をすごくロジカルに捉えてるんだよね。それを語る中で「疲れているのに丁寧なレシーブ」として、「根性」の山本を映しているのもまたぐっとくる。そして「根性とは」。山本が語る。「踏ん張りきかないしサボりたがるし文句言うし」、だけど「だいたい最後までやる」。根性とは、全てをひっくり返すような、魔法のようなものではなく、むしろ残酷なまでに地道で力のない「最後のもう一歩」。「孤爪研磨の根性論」の語り手たる研磨はそのことをしっかりわかってて、だけど(きっといつのまにか)自分がその必殺技を繰り出せるようになっているということに気付いていないんだよね。考えてみれば、きっと根性の使い手っていうのはみんな自覚的ではないんじゃないかな。根性って多分、選択的に繰り出す一発というよりもっと潜在的な、薄いベールがかかっているようで、内側からは見えないようなそんなものなんじゃないだろうか。Aパスに甘やかされたセッターは、Aで返らなかった山本のレシーブを、精一杯の信頼とともに福永に託そうと考える。2年生によって繋がるこの攻撃は、それだけでめちゃくちゃエモい。でもそれだけじゃなくて、以前「お前の学校強い?」と尋ねてきた日向に「強いのはおれじゃなくてみんなだから」と言葉を返した研磨は、今まではアンダーであげていたはずのボールに対して、最後、この時、1歩を踏み出しボールの下に潜る。決着。エモすぎる。この時研磨がどれほど自覚的に動いたのかってことは分からないけど、個人的には、このプレーに至る思考を意識的にやったわけではないんじゃないかと思うなー。とにもかくにも、あそこでしっかり潜り込んでオーバーであげた、そのことに研磨は特別な感慨を持っていたりはしないっていうのはめちゃくちゃにスポーツマンだなと感じた。そこに理由も説明もきっといらないはずだもんね。



いや今週はエモかった。早流川vs音駒は毎週エモかったし、熱いし、面白かったなー。さて来週は、場面が烏野に戻るのだろうか。2セット目が大変そうなところまで進んでいそうで怖い。ということで、来週。