ハイキュー‼︎第314話「最強の味方・2」

影山が研磨のプレーの意図を全てわかっているのが本当に気持ちいい。何重にも練られた作戦をこうしてぶつけてくる研磨の頭脳も恐ろしいけれど、だけど烏野だって、「知らず知らずのうちに」一方的にやられているわけじゃなく、ちゃんと見えている影山がいる。まず、それが今週いきなり出てきた描写ではなくて、影山が「気付いている」と思われる場面っていうのは、いくつもあったんだよね。そして研磨の「頭脳」を強調するあまり、能力パラメータで研磨と同じ「5」の数値を示している影山の「頭脳」が疎かにされるということも一切なく、ちゃんと影山は「全部」気付いているよ、と描かれる、これが本当にフェアだなと思えて嬉しい。
 
 
研磨の意図、そして今の烏野の状況、「日向に中途半端な状態で打たせれば」どうなるか、というところまでしっかり見えていて、その上で「すげえな 面白えな」と続くのがまた良い。的確な作戦を講じ成功させている相手に対する敬意や尊敬と、そんな相手とネットを挟んで戦えることが何よりも面白いというような様子。やっぱり影山も只者じゃない。
 
 
「日向の得点を数点でも削がれること」、そういった制限がある中で戦うことを影山は「きゅうくつなバレー」だという。「日向の得点が制限されること」が勝敗にかかわるかもしれない、という話より先に、勝敗の1つ前の段階としての、「競技と自分」の話が出てくるんだなあ。勝つとか負けるとか、試合の展開としてどうなるだろうかとか、そういう勝敗という結果を前提とした話に先行して、「きゅうくつだ」という、試合の「過程」の話、バレーボールという競技の中の自分、という話が出てくる。
 
 
「つーか日向は使える状態か」、影山はどこまでもフラットに物事を見ていて、それが本当に大好き。影山が日向を使うのは「やさしさ」なんかではない。使える、こいつは決める、決めさせると「しんらい」できて初めて、日向に最後を託す。それが何よりスパイカーにとってどんなに誇らしいことだろうか。やさしさが一切ないからこそ、意味があるんだよね。
 
 
スパイカーの前の壁を切り開く その為のセッター」。影山は3話で「難しくてかっこよくて面白い」セッターというポジションの魅力としてこれを挙げた。そして7話では、「高く跳ぶこと」ただ1つを武器にコートに立つ日向に、己の技術に大きく依存させる形で速攻を提案し、同じように発言した。影山の根っこの部分って、本当にこの頃から変わっていない。影山の考えるセッターというポジションの核の部分は、影山の中にはずっと変わらず存在している。ただ、その言葉の中身というのは、本当に本当に変わった。以前と同じ言葉を使っているのに、その中身はまるっきり違う、でも根っこのところはずっと変わらない。それがも〜エモすぎる。


烏野は乱され、日向もつい気持ちがはやってしまう。はやくはやくと駆ける日向に対して、影山、「"オープン"‼︎!」。もうこの「オープン」で、涙がダーーーって止まらなくなってしまった。


この「オープン」は、ただいくつもある攻撃の選択肢のうちの1つ、というだけじゃないんだよね。4話「最強の味方」、15分(あるいはそれ以上)続いたレシーブ練習で、辛いのに苦しいのに決して足を止めない日向に、はじめて影山が上げたトス。日向の「勝利にしがみつく力」はこの時から、あるいは1話から、この物語の核であって、今週、きっと影山が「勇気を出す」最後のきっかけになったのも、レシーブを上げながら助走に入る、攻撃に入ることを決して諦めない・捨てない、この日向の「勝利にしがみつく力」だったろうと思う。4話と今週314話は、想像する以上に、明確に重ねて描かれているし、それだけではなくて、314話には、この310話分の積み重ねというのが確かに現れている。310話分、積み重ねる中で、日向はバレーボールの基本中の基本「レシーブ」が、バレーのすべての始まりであることを理解し、自分のものとして掴み始めたし、影山は、自分の理想とするセッターとしての像を実現する方法を知った。

そしてこの314話が、日向・影山の互いの強化合宿の成果とも交差して、289話「楽・2」と対になる話であること。289話では、はやくはやくとリズムを早めていく烏野コートの中で、余裕のないレシーブと余裕のないスパイクを必死で繋がなければならなくなっていた影山に、高いファーストタッチを上げ、「呼吸」をさせた、一瞬の余裕を与えたのが日向だった。そしてそれというのは、日向が強化合宿で学んできたことだった。そして今週314話において日向は、「レシーブを上げながら」「攻撃にも入る」の両方を選び、やはりその2つにはさまれて、「はやさ」に急ごうとしてしまう。そんな日向に、今度は影山がオープンのトスを上げることで、「時間」を作る。そして「ドンのジャンプ」はもちろん、影山がユース合宿から持って帰ってきたもの。


物語の積み重ねの中で、この「オープン」は必然だったといえると思う。過去からずっと彼らの中心にある本質的な部分や、314話分の成長や、これからの可能性。そういうのが全部合わさって、「このタイミングでのオープン」は、きっと必然だった。

更に、Twitterで他の方のツイートを見てなるほどと思ったのは、突然の「ドン」ジャンプであっても、3rdテンポの攻撃であるために「トスが合うかどうか」というのが問題にならないんだよね。

そして強化合宿以降の日向の目標として確かにあった「ドンのジャンプ」が、今回3rdテンポという形で為されたこと。ドンのジャンプを成功はさせたけれども、「まだ3rdテンポ」というところに留まったこと。「ドンのジャンプ」と、それを使った変人速攻の物語は、これで終わりでは決してない。むしろここからやっと始まる。私は「ドンのジャンプ」が日向の最終目標であるかのようにどこか思っていたけど、実際のところは、まだ括弧付きのドンジャンプ成功、でしかない。日向の持っているものを活かせるのは、まだまだこれから。そのことにすごくワクワクした。

長々と書き連ねてしまったけど、今回のこのタイミングでのオープンには本当にいろんな意味と必然性と理屈がちゃんとある、ということを考えれば考えるほど、物語の説得力と力強さに圧倒される。そしてこの一連の絵の力がまた、ほんとーーーにすごい!もうこれは見ればわかる見なくてはわからない、としか言えないんだけど。古舘先生の「書き文字」が、漫画という表現の中でいかに効果的な演出として存在しているか。以前から勿論分かってはいたけれども、あまりにすごい。特に春高編以降は、演出や表現の進化が本当にものすごい。


そして鳥籠を抜け出す…のではなく、天井をぶち破って、飛び立つ。最後のコマの田中の表情にやられるよな〜。4月からずっと、こうやっていてくれたのが田中なんだよなあ〜!そして、研磨がずっと驚いたような呆気にとられたような、そんな表情をしているのがまたたまらなく気持ちいい。来週、日向の攻撃は決まるのか(決まらなくても十分に意味のある「ドンジャンプの成功」だったと思う)、研磨はどんな顔をして、何を言うのか。本当に楽しみ。最高に気持ちいい素晴らしい1話!