ハイキュー‼︎第304話「点のとりかた」

黒尾のアタックを受けた日向。「ハーケン」はあったけどまだまだ完璧というわけではない。でも自分の良かった点・できた点を自分でよく分かってるっていうのはいいことだよね。ただこの試合ではそれもまた研磨のエサになっているというのが何とも…


記憶している限り、烏野は音駒からセットを取ったことがない、と思う。いつもどうしても、掴めそうなところで掴めない。ただ1セットだけど俺たちには「劇的な1セット」、もうすぐ掴める、俺が掴む、俺が決める。この独白が最後にああやって繋がっていくところがまたハイキューなんだよなあ〜。


烏野も音駒も最高のパフォーマンスをお互いぶつけ合いながら、熱いラリーが続くところで、1人少し違う「点のとりかた」をするのが、やっぱり研磨。昨日侑がやっていた「オーバーネットを誘う」プレー。研磨は侑がやったのを見てその意図に気付き最高に嫌そうないい顔をしていたけど、今回同じことをやってきたのもやっぱり、「すごく凄いものを見てできそうのラインが更新される」のやつかな。研磨のモーションの少なさや高いゲームメイク能力とも相性がよさそうで、「とくい」なのも確かに、とすごく納得した。そしてこの研磨に関して、コートの内と外とで見え方にかなり差があるのがやっぱり面白い。音駒生徒たちは、小柄でおとなしいようにさえ見える研磨が、明らかに上手くてデカい影山や月島を翻弄しているだなんて全く気付いていない。でもその中で画面越しでもしっかり分かっているのが天童っていうのがまた面白いね。研磨と天童って、人の感情とかキモチの動きとかそれに伴う思考とか、そういうの食い物にしてバレーやってる2人なんだなあ。天童が研磨のことを「わかる」のがすごくわかった。「気付けばブレイク」は確かに面白いし言い得て妙。「あれ?音駒ブレイク?」って感じなんだよね。烏野押せ押せムードが烏野コートだけのものじゃなかったっていうのがよく分かる。そういうムードが観客や実況解説の中にまできっとあった中で、ぬるっとブレイク取ってセットポイントまで辿り着いている音駒の気味の悪さ。


決まってもいいはずの烏野の攻撃が、今回ほんとに決まらない。レシーブトススパイク、という基本のリズムを音駒は今試合取れていないこともかなりあって「返球で精一杯」なようにも見えるんだけど、それでも常に一枚上手であるのが音駒であり、研磨。烏野は「劇的な1セット」を取るぞ、俺が決めるぞと全員が助走に入る。全員が。そしてボールは静かに床を跳ねる。も〜〜〜〜ここがすっごい。時間が止まったみたいに静かで、ただ「だんっ」とボールの音だけが確かに聞こえる。


まさかの音駒第1セット先取。いや本当は「まさか」でもなんでもない、烏野が音駒からセットを取るのがどんなに難しいことかっていうのは、実際ずっと読んできて、音駒から1度もセットを取れたことがない烏野を見てきて、しっかり分かっていたはず。なのに烏野が取るって、本当に少しも疑わなかったんだよな。それは今週冒頭のモノローグの存在もあるし(この作品ではああやって「確信」が強調して語られるときは後にそれが裏切られると、わかってるはずなのにね〜〜、毎回しっかり騙されちゃう。笑)、試合が進むにつれて完成に近づいていく音駒と戦う烏野は、きっとだんだんと決まりにくくもなるし、それに伴ってやっぱり体力の問題っていうのもある。だから烏野は第1セット取らなきゃまずい、だから取るだろうって、思い込んでたんだよな〜〜。いや本当に驚き。


音駒が取った・烏野が落としたこのセットの最後の1点は決して「劇的な」1点ではなく、「ボールを落とした方が負ける」という言葉の意味が痛いほどに分かった。負けがいつもドラマティックなものではないというリアル。スポーツって、試合って本当そうだよなあと思う。ただすごいなと思うのは、こういう負け方とかミスは実際あるものだけど「漫画」の展開としてどうか?ってなった時に、やはり単なるミスではなく「研磨が」誘ったもの、っていうのがすごく効いてくる気がする。このプレーを研磨の魅力としても描かれることで、「リアルなスポーツの描写」だけが浮いてしまうということがない、というか。ただまあ烏野としては、単なるミスじゃないっていうのはかえってキツイよね。解説者によって丁寧に解説されているように(この世界の解説者は今の何だろうって思うプレーがあるとすぐに超わかりやすく説明してくれるのですごい)研磨がこのプレーを選び・そして決めるに至った前提、意図、手段、そして結果の全てがカッチリ綺麗にはまってしまっていて、単なるミスではなく、烏野のコンセプトやその誇り、それらに裏付けされた「取るぞ、取れるぞ、」という雰囲気を今回利用された分、かえって引きずるのでは…とやはり思ってしまう。コンセプトを貫くことに迷いや遠慮が生じてしまうとやっぱりちょっとまずい。というか、烏野にもしも少しでも迷いが生じてしまったらその時点で、「攻撃参加意識の高さ」に支えられた烏野のコンセプトは成立し得ないのでは…とも思う。だけどそれすら利用してきた研磨に対応するには、だから迷いとかではなく、攻撃参加意識を高く維持する中でもまた守備に対する態度をハッキリ決めてみんなで共有してなくちゃいけないんだろう…と思う。


「翔陽化」っていうワードがまたいい。面白いなと思うのは、全員が「翔陽化」している中で、当の日向はというと、レセプションに入るために攻撃に入れなくさせられてることで「脱翔陽化」させられてるんだよね。脱翔陽化させられている日向が今コートにいないっていうのも何か意味がありそうだし、ここが何か重なっていくかなあ。脱翔陽化してる日向が何かきっかけを提示するにしても、とにかく脱翔陽化「させられてる」状況を知った上で脱翔陽化「する」必要があるのかも。とにかく研磨の思い通りに動かされているうちは烏野はそちらのペースに引っ張られるがままになってしまいそうで。


烏野良いわー!と大笑いの木兎さんめちゃくちゃ良かったね。木兎さんらしい!稲荷崎戦の梟谷2人の解説を見ていて、赤葦は「自分だったらどうするか」「◯◯はどうするだろうか」とか「こういう意図がある」というようなことを言っていることが多くて、自分や他人の内側を想像したり予測したりしてるのとが多かったんだよね。対して木兎さんはというと、自分でも他人でも人の内側のことに言及することってほとんどなくて、徹底的にコートの外・試合の外からの視点で見たままを口にしてることが本当に多かった。1度だけ「俺だったら」の視点が出てきたのが田中が不調だった時で、あれは「俺だったら」という言葉を使ってはいるんだけどほとんど「俺だ」に近かったのではないかと思う。コートの外から見たあの時の田中の辛さや苦しさが木兎さんにとってはあまりに身近すぎた。だからあの時は、俺だったらどうだろうと想像しているというよりは、「俺の場合こうだ(った)」という実際の経験の話をしてるように思える。

大将や奥田くん&ひろみちゃんは経験者ゆえに、お見合いでボールを落とすミスがどういうものかってことが分かってるし、そのミスをする感覚もきっと自分のものとして肌で分かってしまうから、「ヒュン」と反応した。美華は(観戦)初心者だから、お見合いっていうのがどういうことかという知識もまだないし、そのミスの感覚を想像するための基礎となる経験もまずないから「?」という反応になる。で、木兎さんは、田中の時とは違って今回のこの「お見合い」というミスと似た経験をしていない(あるいはお見合いの経験があったとしても、そのダメージがそれほど強いわけじゃない)から、強く感情移入するということはしていないし、「自分だったら」と想像するということも普段からあまりしないので、この場面では木兎さんは、コートの外試合の外からの視点を保つことができる。コートの中の人物や試合の中の出来事に自分を重ねるということをせず、徹底的に外からの視点になるので、「面白い烏野の面白いミス」へのリアクション以上にも以下にもならない。あくまで「烏野の」ミスへの反応、という感じ。木兎さんはそもそも烏野が面白くて好きなんだろうなとすごく思う。だから今回のお見合いへの反応も、「やっぱ烏野面白いわ」という感じ。稲荷崎戦の「ここに来てまだ新しいこと試す」旭さん・烏野を見て「カラスめ!」と嬉しそうにしていたのの延長上にあるようなそんなリアクションに見える。


天童の最後のセリフがまた絶妙だ〜〜。烏野ヘンなの!ネコマオモシロ!って言いながら音駒の守備や研磨の意図っていうことに関してわりと客観的に見ていた天童が、初めて1人の(元)選手として主観を喋ってるなという感じ。高校でバレーを辞めるという決断に後悔はないだろうし、最後のあの試合にもきっと未練はないのだろうと思うけど、「こんなヤツラ」とやってみたかったな、とも聞こえる。天童がこんな顔してこんなことを言うのは、やっぱりまだちょっと嬉しいなあ。


第1セットが終わったけど、第2セット以降どうなっていくのか予想つかないなあ。今週本当に面白かった!研磨がキレッキレだと更にだね!ゴミ捨て場が終わりに近づいているのがもう寂しいけど、早く先を読みたい気持ちの方が大きい。来週ついに第2セット、たのしみです。