ハイキュー‼︎第324話「祭の終わり」

終わっちゃったねえ。

 

始まったものは必ず終わるし、この試合に「もう1回」はない。本当の本当に終わってしまいました。

 

 

全国の舞台・東京体育館で、負けたら即ゲームオーバーの、「もう1回」のない試合をとGWからずっとずっとやってきて、ようやくそれが実現して、しかしそれが“ただの”夏合宿の練習試合に重ねられたのに胸がぎゅっとなった。夏、何試合も何試合もやった練習試合。記録にも残らない。特別な試合でも何でもない。ずっと目指してきた「ゴミ捨て場の決戦」を迎え、必死にボールを追いかけている今の彼らにとって、特別な舞台であることとか勝ちとか負けとかそういうの、もちろんめちゃくちゃ重要なことではあるけど、こと「今この瞬間」においては、練習試合も春高第3回戦も何もきっと変わらない。ただただバレーボールを心底楽しむ、楽しんでいるという最も根源的なものがあるだけ。それがなんて眩しいのか。きっと今この時間の中にいる彼らはそんなことには気付いていない。「練習試合も春高の試合も変わらない」なんてことは絶対に言わないだろう。もちろんそうだと思う。練習試合と全国の試合が同じわけはない。だからこそ「ゴミ捨て場の決戦」に拘った。だけど、目の前のボールを追っているこの一瞬、ただ純粋にバレーボールという競技そのものに触れているこの瞬間だけは、そういうの全部関係ない。それが何だか泣けちゃう。

 

 

海さんが上げた完璧なレシーブ。研磨がトスを上げに入る。猛虎もリエーフも完璧にスパイクに入る準備ができている。そして、研磨の手の先を滑ったボールは、音駒のコートに落ちる。終わり。

 

 

何て残酷な終わりだろう。だけどきっと、「汗」が1点を吸い取ることは当然でもあった。全員、本当に全員が最高のプレーをして、長く長く続いたラリー。その中で、この全員の汗のついたボールが「誰か」の手を滑るのは必然だったんじゃないか。それがたまたま烏野の25点目だった。この終わり方を悔やむ選手だっているかもしれないのに、こんなことを思うのは失礼かもしれないけれど、だけどあまりにも綺麗だった。

 

 

ゲームとしてバレーボールをやっていた研磨は、情報をアップデートして、分析して、作戦を立てて、頭の中で考えた通りに相手を攻略していくことを楽しみながらも、ゲームオーバーを思って悲しくなったりなんかしていた。だけどそれは日向によって破られる、何度も。最終セット、全員が試合にのめり込み、相手の最高を自分の最高で上回っていく、そしてまたそれを相手がさらに超えていく、その中で研磨はバレーボールを楽しいと言った。そして最後、その全員の「汗」によってこの楽しい時間は終わりを迎える。生身の人間が自分の「身体」を使って行う「スポーツ」だからこそ生まれてしまったエラー。そうやって幕を下ろした試合を研磨が「面白かった」と笑ったことがすべてだ。

 

 

「たられば」はいくらでもある。これが最後のラリーでなかったなら。あの時あの1点を取ることができていたなら。だけどこの第3セットが21-25という4点分の明確な差を以て終わったこともまた事実だ。烏野はやっぱり強かったし、音駒はそれには敵わなかった。だからこの「祭」が研磨の指先で終わったことは、あまりにあっけなく、生々しく、残酷だけれども、それ以上に、研磨には優しくドラマティックな最後であったとも思う。黒尾も夜久さんも海さんもここで終わる。研磨はここから始まる。勝ったって負けたって誰も死なない、生き返らない、世界を救うことも滅ぼすこともない。ただのバレーボールをこれから始める。

 

 

研磨に悔しがってほしくないというわけではないけれど、研磨に「悔しがりなよ」とは決して言いたくない。研磨がバレーボールを楽しいと思うようになって尚、勝敗にこだわりがなく、だけれども部活をやってバレーボールをやって試合をしているということを否定したくないし、そういう子にだってバレーボールをやっていてほしい。そして同じくらいに、誰かの「悔しい」の存在を分かってあげてほしいと思う。共感なんてできなくたってもちろんかまわない。共感だけが寄り添うことではないから。研磨が勝敗に拘らず、それでもチームの皆が受け入れてくれていたように、研磨もまた、勝ちたかった・次がほしかったチームメイトの「悔しさ」を見ていてほしい。

 

 

この「特別な」試合の最後がこんなにあっけなく、本当にただただ終わっちゃったね、というように幕を下ろしていくことに、不思議と驚きがない。終わっちゃったー、うん、とコートを見つめる2人の寂し気な横顔を見て、ああ皆まだ終わりの中にいるんだなと思った。

 

 

私は黒尾に、最後にコートの中にいてほしかった。と、思っていた、ずっと。だけどそれは叶うことがなく、どうしたって手の出せない場所で最後を迎えた。最後研磨が落としたボールが上がらなかったことを後悔することもできない場所で。試合に負けたことと、研磨の言葉を聞けたこと、頼もしい弟子たちがこれからも黒尾の教えを証明し続けること。それらは全て別の場所にあって、きっといろんな感情があるだろうしそのどれもが一緒に湧き上がってくることに矛盾はない。彼にとってこの試合が、少しでも何か報われたものであったらいいなと勝手ながら思う。

 

 

まとまりませんが。本当に終わってしまったのだなと寂しく、切なくなりながらもどこか爽やかで美しい最後でした(どんなふうにも物語を消費できてしまう読者のエゴですね…)。お疲れ様、本当にありがとう。