ハイキュー‼︎第291話「変化の日」

決着。驚きに揺れる東京体育館。この瞬間がいつも好きだなあ。試合終了と同時にぺたっと座り込んでしまう月島を見ると、本当にお疲れ様でした、とそれ以外の言葉を掛けようがない。白鳥沢戦でやっとスタートラインに立ったばかりの月島にとっても、この試合は大きかっただろうなあ。体力や疲労の問題は今日明日でどうにかなるものではないし、誰より月島自身がそれを実感してるはず。体力やスタミナ、レシーブ、サーブ…これからの月島がやっぱり楽しみ。
 
成田とか木下、スガさんが目に涙を浮かべてるのが胸にくる。試合の結果にかかわらずもう数日で高校バレーを終えることになるスガさんが、後輩の成長を思って涙していたりだとか、言葉にならないような思いと共に2人を抱きしめたりだとか、ほんとうに根っから優しくて愛のある人だなあと思う。春、スパイク打ちたいってそればっかりの、レシーブ下手くそな日向に付き合って練習をしてくれたのがスガさんだったもんね。
 
そしてそんな烏野の騒がしさとは正反対の、音のない稲荷崎。その中でただひとつ、微かに揺れているボールと、最後まで手を伸ばした銀島。
 
今止めたのは俺だ、いやおれだと争う日向と影山の通常運転っぷり。2人で止めたんだけどね。決勝点だろうとなんだろうとお互い譲らない、競い合っている様子は実に彼ららしい。
 
音駒。研磨の表情が最高にいい。嬉しいっていうと少しずれるような気もして、やっぱり「ワクワク」かなぁ。そして誰より険しい顔つきをしてその隣を歩く黒尾。これがわりと意外というか、予想外だった。烏野より一足先に3回戦進出を決め「俺たちは来たぞ」と独白していたシーンの結びとしては少しギャップがあるように感じる。何ていうか、研磨以外はみんなちゃんと「次の相手」の顔してるんだよね。観戦中もわりとそういう感じというか、極端に烏野に寄っているわけでもなかった。

「ついコーフンして」鷲匠監督に電話を掛けてしまう穴原監督。めっちゃかわいい。絶対モテるでしょ。同性にも異性にも先輩にも後輩にも生徒にも。そして「見た」の鷲匠監督。若き日の鷲匠監督は、小さいながらにジャンプ力があって、攻撃には自信があったし、レシーブも誰にも負けませんと言えるくらい技術もあった。それでも、なんだよね。それでも「それで高さがあればなぁ」と相手にしてもらえなかった。今試合、日向はレシーブに関してかなりの成長が見られたけど、やはりそれでも、っていうのは考えてしまう。時代の違いはきっとあって、雲雀田監督らが築くこれからの日本のバレーは、小柄な選手にとっては昔よりずっと、いい環境であるかもしれないけど、言うまでもないことだけどそれは小柄な選手に特別「やさしい」環境ではなくて(当たり前のことであり、もしそんな環境であったなら小柄な選手そうでない選手の全てに対して失礼な話)、それだけ技術やなんかがなくちゃいけない。至極当たり前のことだけど。だから日向にとってはここからがスタートだよね。真っ暗闇の「茨の道」を日向はずっと走って来て、今はちょうど、その道が少し明るくなったみたいな状態なのかもしれない。以前より前が見えやすくはなったのかもしれないけど、やはりゆく道は容易ではない。見えなければよかったと思うほどに苦しい道を、今後進んでいかなければいけないのかもしれない。日向に限らずだけど、上手くなるごとに・技術をつけるごとに・努力を重ねていくごとに、上には上がいることや自分がやるべきことの多さ、その困難さに気付くっていうのはあると思う。でも、強化合宿のあの日向の姿を見ると、この子はどこまでもこうして突き進んでいく他ないのだなと、(ただの読者ながら)こちらも覚悟が決まるようなところがある。やっぱりあの合宿編は大きい。

侑。影山に「またな」と声を掛け、そして日向には「いつか」トスを上げるでと宣言(予言?)する。「またな」「いつか」、明確に違うよね。それでもこの「いつか」は、具体的な時期は不明瞭であるが確実に来る「いつか」なんだろうなとは思う。それでも「またな」と圧倒的な差はあるけど。それは現状影山がユースに選ばれていて日向は擬似ユースにも選ばれていない、という差そのもの。侑が日向に向けた言葉には、あまり侑自身の願望とか希望が入っているようには思えなくて、宣言のような予言のようなものなんじゃないかなあ。「下手糞と試合すんのほんま嫌いやねん」に対しての、「いつかアンタにトスを上げるで」。そういう変化を侑に生じさせたものの正体とは、ということでいうと「感動したで翔陽くん」なんだろうか。とにかく日向のスパイカーとしての能力の高さを買った上での発言というわけではなくて、直感的なものなんだろうなという感じはする。「次もくれ」とか、治の言う「あいつ見てると腹減ってくる」みたいなところ。しばしば「狂気」と表現されるような、日向を主人公たらしめる何か……というとやや表現が雑かとも思うけど… 

そして侑から「IHで」って言葉が出て来たのがやっぱり嬉しい。烏野が一度負けて再び立ち上がったように、彼らもまた強くなっていく。ぶっつけ本番(?)で変人速攻を真似して見せて、それを扱う怖さや難しさを十分に理解しないまま使い続け、負けた。日向影山のIH予選青城戦における敗退と同じものではないのは当然として(言わずもがなそこに優劣もない)、この負けを経験した彼らともしも次に戦うことがあるならば、やっぱり今のままの稲荷崎じゃない。

稲荷崎戦の目玉の一つでもあった応援団への挨拶。烏野太鼓のヒゲのお兄さんがめっちゃ泣いてるのいいな。そして稲荷崎。侑は自分にもとことん厳しいのがいいな。そして誰より深く頭を下げる北くん、いい。この子はこういうことをずっと、誰かが見てても見ていなくてもやってきたし、やっていくんだよね。両校応援団がお互いに無言で深く頭を下げる、そういうシーンが見られたのも良かった。応援ってなんだろう、誰のものだろう、どこまでが応援なんだろう。味方への「そーれ!」と、相手へのブーイング。より応援らしいのはどっちだろう、では実際に味方への応援として機能してるのはどっちだろう、そういうことをぐるぐる考えてはなかなか答えが出せないでいるけど、両校応援団のこのシーンが見られたのはとりあえず良かったかな。

やっちゃんとの再開ににかっと笑う潔子さんめちゃくちゃ好きだ。かわいい。潔子さんのかわいいところってほんとこういうところだよね!お茶目。かわいいわ〜。田中に思わずサムズアップな男の子たちも良かったです。

稲荷崎。謝りかけた双子に北くんが一度ジョークで返したの、好きだなぁ。ここで「謝る人」「謝られる人」っていう両者の立場が一度フラットになる感じというか。謝罪の延長で北くんの話に続くのではなくて、謝罪の先に話を進めることができるという感じ。「さっきの速攻が間違うとったと思えへんねん」からの一連の流れにはめちゃくちゃ同意。自分に後悔はないし、勝敗は単なる副産物だという考え方も変わっていないけど、俺の仲間すごいやろってもっと言いたかったなあ、悔しいなあ、って北くんの居方がやっぱりすごい。北くんは自分の考えや価値観はこうっていうのが確固たるものとしてしっかりあって、その価値は揺らがない。その上で、自分の仲間(とその仲間の持つ考えや価値観)を自然に自分の中に組み入れることができるっていうのがすごい。自分に悔しさはない、その延長上に仲間の悔しさに対する悔しさがある、それらが自然に両立しうる、という。

それに対する双子の言葉にこんなに泣けてしまうのなんでなんだろうなぁ。双子にとって北くんってずっと先輩で、北くんにとって双子はずっと後輩。当たり前なんだけど、そのことが何か無性にあったかく感じて泣いてしまう。「バケモン」な双子と、恐らくは人間側の北くんだけど、部活という枠の中ではただの先輩後輩で、それはずっと、孫の代までいっても変わらない、っていうことに何だかほっとしたのかなあ。昨日の勝ちを・今日の負けを全て養分にして、「思い出なんかいらん」と、今この時の勝利に向かって突き進んでいく彼らが、今言葉にした明確な未来が「孫の代まで自慢できる後輩になりますから」っていう、コートの上での勝負からひとつ離れたところにあるものなんだなぁ、とか。そして「はよ着替え」と繋がっていくところに、コートを一歩離れたところで、普通の高校生が勉強とか部活をやりながら生活してる、その途中にこの試合があったんだな、生きてるな〜っていう感覚がめちゃくちゃあった。

烏野。西谷の寝方、めちゃくちゃかわいい。あとジャージ2枚着てる月島、優勝。そしてその月島が語る日向の「その瞬間」。月島の中に「その瞬間があるかないか」って木兎さんの言葉が深〜〜く根付いてることが嬉しいしぐっときちゃうね。


来週、ゴミ捨て場はまだ始まらないだろうけど、梟谷か新山女子か、はたまた他の学校か。楽しみ、だけど緊張。