ハイキュー‼︎第274話「頭」

回想から。おばあちゃんの「誰かが見とるよ」という教えと、幼い日の北くん。コートに入った北くんはまず銀島のプレーについて指摘。「北が入ると皆ピリッとしよる」というコーチと「あいつの正論パンチ恐いからな」という監督の言葉と、先週の引きでサーブに入った北くんを背中に背筋をビィーン!と伸ばす稲荷崎メンバーへの印象がなんとなく重なっていたので、北くんは後輩たちに一目置かれる、"稲荷崎のドン"みたいなキャラクターかなとこの時は思ったんだよね。が、本作のキャラクターの造形はそう単純ではなく。という今週のハイキュー。

エースに代わって入った北くんのサーブは後衛セッターが前衛に出てくるところを狙い、烏野は乱される。「後衛セッターの導線を狙う」サーブはこれまでもよく出てきている印象。影山はアンダーでエース・旭さんへ。ブロックに当て烏野得点か、と思えた旭さんのアタックを拾うのはコート外後方、北くん。稲荷崎はなんとか烏野コートへ返すのみ。烏野はチャンスボールからのシンクロ攻撃。正直、シンクロ攻撃がそれほど大きくないコマに描かれているあたりに「烏野にとってシンクロ攻撃はもはや当たり前の攻撃になっている」という頼もしさを感じた。稲荷崎前衛3人ともが「コレ嫌いや」と嫌がっているのもいい。バレーボールの経験はないですが、こういう小さなイライラとか「嫌いだ」「嫌だ」っていうのが積み重なって、時にチームの追い風になるんだろうなと考えた。4人が助走に入り大地さんにボールが上がる。稲荷崎のブロックは未完成。が、北くんが拾う。表情は変わらない。宮侑が銀島に上げ、今度は決める。

北くんめちゃくちゃ強いじゃん…というところで監督による北くん評。「スターじゃないけど空気をシメる奴」「行動は無駄がなく言葉は的確」中学時代の北くんは試合には出れず、マネージャーのようなコーチのような仕事をしていたのかな。「プレーも未熟ではあったが丁寧」。そして現在の北くんは「自信に満ちている」「他の連中より強いという自信ではなく自分はしくじらないという自信」。このあたりでじわじわと、先週の「凌ぎ役」「代役」という北くんの自己評価を思い出して、納得。実際2セット目も終盤、稲荷崎にとって「取れるセット」で投入された北くんに期待される役割は何点も得点するとかっていうことじゃなく、"このまま"このセットを取るということ。それはネガティブな意味ではなくて、エースに代わって北くんが入って、ちゃんと25点まで持っていけるという自信。

烏野はピンチサーバーで山口を入れる。かつては「ビビリピンサー」と揶揄されていた彼が、中学時代バレーボーラーであった彼女に「こいつが結構決めんのよねー!」と評価されているのがめちゃくちゃ嬉しい。アランくんが「緊張する意味わからん」と言う北くんの言葉を回想しているのが山口のサーブの時というのもぐっとくる。「いつも以上の力を発揮しようとするから緊張するんやろ」からの一連のセリフには、正直めちゃくちゃ共感できず。笑 でも彼はそうなんだろうなという理屈はわかる。彼にとってバレーボールがご飯を食べることや「クソしたり」する(笑)、生理的な営みの延長上にあるということにもキュンとした。

北くんは「初めて試合に出たのは3年になってから」で、「中学3年間スタメンどころかユニホーム貰った事もない」。そんな彼がこの試合でエースの代わりにコートに立つ意味はといえば、「練習でできとる事は本番でも必ずやる」。安定というと言葉が違う気がする。多分北くんは、取れるのがほぼ確実なこの2セット目でも、落とせば即終わりのマッチポイントでもパフォーマンスに差がないんだと思う。ずっと平均点じゃなくて、ずっと最高得点を出し続けることができるということなんじゃないかな。「驚かん事が信介への一番の賞賛」にもグッときた。日々北くんを見ていれば、彼のこのパフォーマンスは当たり前で稲荷崎にとっては想定内のプレー。彼ならこれくらいやって当たり前だという信頼であり、事実。

風邪でも押して部活に参加しようとする宮侑。「バレーせんと悪化する!」めっちゃ好きなセリフ。彼も衣食住と同じ位置にバレーボールがあるタイプだよね。宮侑のキャラクターは「喧しブタ」以降は少々修正が入ってきたのか、印象が変わりつつある。「喧しブタ」は言葉が強いからアレだけどバレーボールへのストイックさとか自身のパフォーマンスへのプライドを感じてこれはこれですごく好きな彼の一面だし、「バレーせんと悪化する」とか「コート上で精神年齢が下がる」あたりは、「喧しブタ」の場面で感じたストイックさやバレー馬鹿っぷりを少し表現を変えてポップな描き方になってきたのかなと感じた。宮侑の根本的部分は変わってないけど、表出の仕方が様々。そして「帰れや」「体調管理できてへん事を褒めんな」という正論パンチ。宮治の「風邪引いてまう」めっちゃかわいいwそして宮侑に正論パンチを浴びせた北くんは部室に差し入れまで用意していてアフターフォローがすごい。なんか、優しいとかギャップとかっていうより、本当に真面目な人なんだろうなと感じた。「緊張する意味わからん」の共感できなさ(いい意味で、というか、流石に共感できないというのを先生もわかった上でフリにして描いてるだろうと思う)から、徐々にあったかい部分が見えてくる。稲荷崎の部室がめちゃくちゃ綺麗なのも数コマ後では北くん自らが掃除しているのがわかるし。「毎日やんねん ちゃんとやんねん」ここでもうちょっと涙出る。先の場面でもあったけど、体調管理、そうじ、あいさつ、と並んでバレーボールがあるというのがさぁ。

おばあちゃんの「誰かが見とるよ」という教えは、誰も見ていなくたって「反復・継続・丁寧」は心地よい、と彼の中で再構成されている。過程の大事さを知っている北くんは、多分本当に、「反復・継続・丁寧」を続ける3年間の先に、一般的に成功とされるような結果が例えなかったとしても、自分の3年間の高校バレーの価値を見出すことができていただろうと思う。だけどやっぱり、1番のユニホームをもらって大粒の涙を流す彼の姿にはこちらもまた涙が出た。報われないかもしれない努力を「過程が大事で結果は副産物だ」と本気で信じられること、またそうやって信じられるくらいの努力を続けていること、そんな自分に価値を見出せること、全てがすごいけど、誰かが見ていてくれた結果、何より自分の努力が1番のユニホームという形で結ばれたことが嬉しくて涙を流せたり、笑顔になれたり、北くんのそういう部分が見られたことに本当に安心した。たとえ誰が見ていても見ていなくてもずっと努力を続けた1人の子が報われる瞬間が1話をかけて描かれて、それでも「スタメン」「エース」ではない、というのはハイキューのシビアなところだなとも思うのに、同時に、こんなに直向きに日々を積み重ねていける子の存在も、そして1番のユニホームという形で「努力が報われる」ことも、やさしいなとも思うから不思議。北くんのように毎日を積み重ねて、それでも最後までユニホームをもらえないということは、やはりあると思う。でも、少なくともハイキューの世界の中で「努力が報われた」一例として北くんのエピソードがあることは事実で、たとえこんな風に努力を積み重ねた大勢の選手たちの中で報われたのが北くんただ1人であったとしても、可能性が低いことは多分努力をしない理由にはならないんだと思う、ハイキューの世界で生きる選手たちの中で。努力は報われるか分からないけど、努力してみないことには報われないかも分からない。

なんだかうまく言葉にできない。本当に素晴らしい1話でした。(北くんのおばあちゃんが信介とプリントしてあるセーターを着て元気に応援に来ているあたりもやっぱりハイキューって信頼できる!)すっかり稲荷崎を好きになってしまった。ハイキューは毎回烏野と当たる相手のことも大好きになってしまうけど、稲荷崎については正直先週まではそういう気持ちってまだなくて。それが今週でなー。北くんを応援したくなる気持ちももちろんだし、北くんの掘り下げを通して稲荷崎のメンバーの可愛らしい部分や、1人の高校生としての部分、関係性が見えてきたのが大きいなぁ。烏野は8点差をつけられた状態で稲荷崎セットポイント。にもかかわらずめちゃくちゃに爽やかな気持ち。これだからハイキュー大好きだ。また来週が楽しみ。