ハイキュー‼︎第298話「導」

山口、ピンチサーバー。「影山がまだサービスエースをとっていない相手」っていうのが、昔ならきっと「そんな相手に俺が…」というように、自信のなさの表現として使われていたのかもしれないなと思う。でも今の山口は、「影山はまだとってない、俺がとってやる」というようにメラメラと闘志を燃やす。あの山口が影山をライバルとして認識するようになるなんて、連載初期の4月の彼らをみている時には全く想像すらできなかった。山口の中での変化(成長)が丁寧に時間をかけて描かれたからこそ、影山との関係性の変化に胸が熱くなる。

 

 

そんな山口を見て「かれは一人でも勝つ気じゃないかい」と月島に声を掛ける黒尾。黒尾は当然、春高青城戦でサーブを決めて以降ピンチサーバーとしてガンガン活躍するようになった山口を知らないわけで、山口のあの表情に驚くところもあるだろうなあ。そして試合中にこうネットを挟んで会話をしてるっていうのはやっぱり身内感というか、知った仲同士の試合だなあと改めて実感する。これまで白鳥沢とか稲荷崎が相手の時もネットを挟んで話している場面は勿論あるんだけど、そっちは煽りの意味合いが大きかったりもして、今回の「普通の」会話はちょっと違うよね。

 

 

そして月島、「あいつは僕の先を行く男なんで」!この月島の表情にもぐっときちゃったよ…笑ってるみたいな。黒尾が「?」とピンと来ていないのがまたいい。今週の終盤でこの月島の発言の答え合わせもちゃんとされるんだけど、ここを読んだ時点で、月島がそう思っている(きっとずっとそう思っていた)のって分かるなあってすごく思った。言葉や態度に出さなくても、あるいは本人が意識していなかったとしても、月島にとって山口はいつからかそういう存在になっていたんだなっていうのはすごくすんなり入ってくる。かっこいいものが好きな月島の隣にずっといた人だもんね、山口は。

 

 

山口、サーブ。虎の方に打ったのは、エースの牽制とリベロを避ける意図があるのかな。腕全体でしっかり捉えたかに見えたボールは変化し、コートの後ろへ落ちる。本日1本目のサービスエース!影山がメラっとしてるのがまた最高だ。山口が影山をライバルとして見たこともすごくいいんだけど、影山が山口相手にメラメラしてるのも本当にいい。こんなのが見られるなんて思わなかったよなぁ・・・1年生の関係性も少しずつ変わってきていて、烏野2年や3年の「友達であり仲間である」関係性とは随分違うんだけど、独特な関係性ができてきてるよね。他の学年の子たちよりも「友達」感は薄く(月島・山口と日向・山口くらいだよね・・・と考えると烏野1年の中での山口の存在の大きさを実感する)、「ライバル」として、っていう面が強くなってきたのかなと思う。当然先輩たちの関係性は過ごした時間の長さって要素も大きいと思うけど。

 

 

山口を子のように思っている嶋田さんに笑ったけど、山口の活躍には本当にこの人の存在が必要不可欠だったことを思うと、当然自分の子でも身内でも何でもないのに面倒見てくれたのすごいよなぁって頭が上がらない。でもそれも、こうやって応援に来てくれるのも、高校生たちのため以上に自分がそうしたいからだって彼らは言うんだろうなあ・・・

 

 

山口サーブ2本目。夜久さんの言外の「音駒に"もう1本"は無えぞ」で、上げるのは虎、という一連の流れの全てがいい。仲間への信頼、というより、コイツは上げるぞということを当然といった形で独白する。そして山口は先ほどと同様、しっかり狙いを持って虎に向かってサーブを打つことに成功する。だけどやられてばかりではないのが流石の音駒、といった具合で虎がキッチリ上げる。お互いに最高のパフォーマンスを見せ、その上でやっぱり音駒は強いな、って悔しくも嬉しくもなるのが最高に気持ちいい。夜久さんが「音駒」というチームのくくりで語っているのも好きなんだなぁ~。音駒は、個の集団によって形成されるチームというよりかは、まずチームが1つの個としてあって、それを構成する細胞を取り出して見えるのが選手1人1人、というようなイメージ。だから「6人で強い方が強い」っていう、間違いなくこの作品の真ん中に太く存在するコンセプトも音駒に関してはちょっと違っていて、このチームははじめから「6人によって構成される1個体(チーム)」であることが大前提としてあるんだな、という印象。だから音駒を人体に例えたあのポエムがピッタリハマるんだろうね。

 

 

「1人でも勝つ気」の山口のサーブは上げられ、綺麗にセッターに返る。崩せない・・・「十分」。文字の数も最小限で、感情も乗っていない、事実だけを伝える短い単語が淡々と重ねられているだけ、それなのに、月島の「十分」という独白によって流れが確実に「サーブ&ブロック」に向かっていることに気付けて、そこからの興奮がも〜〜すごい。絶対に黒尾に上がるって思った。一歩引いて読んでる身でもそう。目の前でスパイカーがもう跳んでいる、それでも堪えてリードブロックを貫く、って、それがいかに大事かってことはこの作品でも本当にずっと描かれて来たことだけど、改めて考えてみてめちゃくちゃすごいな…って今更月島に言うことでもないかもしれないけど、すごく思ってしまった。



木兎さんがボクトッて効果音背負ってるのがかわいいな〜。何よりこれ月島の記憶の中の木兎さんだっていうのがまたかわいい。そしてその2人の先輩から指摘された「手は前」と「弱々しい」というブロックにおける課題を、月島は今ここで乗り越えていく。月島が大地さんに、そして黒尾にこんな表情をさせていることがも〜〜たまらない。そしてついに、「サーブ&ブロック」がここで完成する。いつか来るいつか来ると思っていたこの展開が、今ここで来たんだなあという感動がすごくて、なんだか夢見心地。



「ウチの」ツッキーを見たかと喜ぶ木兎さんが本当にかわいいよね〜。夏合宿の時の木兎さんって、黒尾とは違って「月島」にこだわりがあったわけじゃないと思う。ブロック跳んでくれる人がほしくて、タッパもあってそれなりに上手くて(木兎さんは月島がバレー楽しくないことに関しては「へたくそだからじゃない?」と言っていたけど…笑)他のところで自主練してるわけでもなさそうだから自分の練習相手にしたいなあ、くらいの感じ。そんな子を体育館に招き入れて、嫌々っぽいけど自主練に入れて、翌日には自主練に誘っても断られて、そうかと思えば急に「聞きたいことがあるんですがいいですか?」とやってきて、そこから何だか集まって練習をするようになった、他校の1年。その月島が、木兎さんをして「ウチの」と言わしめるくらいには、一定のラインより内側にいる存在ではあるんだな、みたいな感動。



研磨の無言の視線と夜久さんの蹴りで責められても黒尾は「ツッキーの実力」って言うからかっこいいよなあ。俺が育てたと言ってしまってもいいところなのにね。



そして月島と山口の歴史にまた泣かされる。山口をいじめる奴らに「カッコ悪」と言い放った月島の背中をまだ見ているだけの山口は、そこから月島の背中を追いかけるようになり、隣に並び、そして夏にその背中を追い越す。そして月島の背中を抜き去った山口は、あの夏の夜、ぐるっと振り返り正面から月島に摑みかかった。いつも後ろにいたはずの山口が、自分がどうしたって越えられない一線をぴょんと飛び越えて戦っている姿を、月島はどんな風に見ていたんだろう。そんな山口を見ていて尚、どうしたって越えていくことのできない一線の存在を、月島はどんな風に受け止めていたんだろう。兄にヒーローの幻覚を見ていた/見させた、と自責する月島の抱えていたものの重さが今改めてズシンと胸に来る。ただ純粋にかっこいい兄が大好きで、憧れで、兄の活躍を喜んで、そんなの絶対に責めるようなことじゃない、悪いことであるはずがないのに、結果それは、「頑張ればなれる」と兄に無邪気な期待を押し付ける行為だったんだ、とそう考えるようになってしまったから、月島は「頑張ればなれる」を、努力の理由にはできない。そりゃそうだよなあ。だけどそれでも烏野に入学してバレーボールを続けるくらいにはバレーが好きで、きっと「理由」を欲してもいて、そんな葛藤を抱えた月島があの夏の進化していく烏野の中で1人ぽつんと立ち止まっている時のその苦しさをつい考えてしまう。でもその月島を一人にしなかったのがやっぱり山口で、そして今、2人が一直線にお互いの方へ向かって進み、手を叩く。ずっとずっとハイタッチを能動的にやることなんかなかった月島がだよ。背中を追いかけ、また追いかけられて大きくなった2人が今決めた1点の大きさに涙が出てしまう。



「最近のバレーはどうだい」と、ネットの向こうから尋ねる黒尾の表情があまりにも優しい。おかげさまで、「本当におかげさまで」極たまに面白いです。もうここでダーダー泣いてしまって…おかげさまで、と一見いつもの皮肉みたいに言葉を返す月島の本当の気持ちは「本当におかげさまで」に凝縮されている。あなたたちのおかげで、あなたたちがいたから、あの夏があったから。先々週の記事でも書いたのだけど、月島が第3体育館の練習で得たものの大きさやそれに対する感謝、特別な思いを吐露するってことはしないだろうと私はずっと考えていて、それは、月島が口に出さなくても、あるいは改めて記憶を取り出して意識するということをしなくても、あの夏の大きさの全ては月島のプレーに詰まっていると思っていたから。そのことは今ネットの向こうにいる黒尾にもコートの外から見ている梟谷の2人にも、月島のプレーを見れば・あるいは実際に戦えば絶対に分かる。私が第3体育館の彼らに関して見たいもの、というか見られたら嬉しいと想像していたものってそれだった。のが、まさか、月島があの夏の大きさをしっかり自覚した上で黒尾に言葉として伝わり、聞こえてはいないのだろうけど、そこに立ち会った梟谷の2人がいた。そんなものを見られるなんて本当に本当に思っていなかった。すごすぎる。



月島が「極たまに」と表現することは月島らしくもあって、だけど本当にバレーが面白いことの証左でもある。練習は辛く、試合の中の苦しい時間はやはりあるし、もしかしたら、やはりいつかは負けてしまうのかもしれない。そういうの全部知って尚、バレーは面白い。「極たまに面白いです」は木兎さんには聞こえてないのかもしれないけど、でもきっと分かってるよなあ。「(バレーが楽しくないのは)へたくそだからじゃない?」というあの夏の木兎さんの言葉には、ウチのツッキー見たかと木兎さんをして言わしめた月島の活躍がこれ以上ないアンサーだ。



赤葦は月島はウチのじゃないですと言ったけれど、勿論烏野の子だけど、やっぱりあの夏の第3体育館の「ウチ」の子でもある。木兎さんからは理屈を超えていくハートの部分を、黒尾からブロッカーとしての心得と具体的な技術を、赤葦からはその技術をどう試合で使うのかという戦術的なことを教わって、そうして今の月島がいる。ほんとうに当たり前の話なんだけど、月島も、黒尾も木兎さんも赤葦も、あの夏の先に今存在しているんだなということに、胸がぎゅっとなった。ただ一度きりの夏だったんだなあ。そして月島には、あの夏しかあり得なかったんだよなあ。第3体育館の子たちが皆、この春高を楽しめますように、悔いを残さず戦えますように、とそう祈らずにはいられないし、普段はあまりこういうことは考えないんだけど、全員が最後まで勝てますようにと、あり得ないと分かっていながら願ってしまう。



本当に本当にすごい回。宝物みたいな回でした。