ハイキュー‼︎第285話「静かなる王の誕生」

稲荷崎マッチポイント。影山は田中へ。黒の背景に大きく放物線を描いたトスの軌道が印象的。打ったボールは大耳のブロックによってコートへ落ちる…と思ったところで上げる西谷がやっぱりかっこよすぎる!今までずっと、この試合烏野が勝つことを信じて疑わなかったけど、大耳にシャットアウトされかけたこの場面は、正直一瞬だけ揺らいだ。それほどまでに絵の勢いや迫力がものすごくて、更に一役買っていたのが冴子さんの表情だな〜。そしてこのページ、大耳のブロックによって落ちていったボール、というのがコマをまたいで表現されているんだけど、この勢いもすごい。動きを感じるというか。白鳥沢戦以降、そして春高編に入ってからは特に、画面のかっこよさとか躍動感がすごいなっていつも思う。

なんとか西谷が上げたボールを影山がアンダーでセット。そこから速攻かよ!この場面で跳んでる日向の凄さ、そしてその日向に合わせてる影山の凄さ、大ピンチの場面で一本上げた西谷の凄さという、崖っぷちのほんとのギリギリのところでも烏野はどこまでもコンセプトのど真ん中をいく、そのことが勝手に誇らしくてたまらない。

なんとか尾白が上げ、誰もが「マトモな攻撃は無理」と確信しているこの場面、からの、侑。ただただシンプルで力強い侑のバレーボールへの愛に、なんだか涙が出てしまった。西谷は上げはしたけどセッターを走らせることになったから「50点」という自己評価なんだろうか。対音駒が実現したら夜久さん相手に学ぶこと得るものも大いにありそう。

先週の引きで「いいえ」と答えた影山が続けた言葉は「田中さんの攻撃が必要です」。ど直球な表現であって、飾りも嘘もない影山の中でのただの事実であるってことが田中にとってもうめちゃくちゃ自信になるだろうなって思う。影山の言葉を聞いて一瞬きょとんとした田中が眼光鋭く表情を変えていくのがぐっとくる。そして続く「田中さんの一番の武器は本当にそれか?」「ーいや一番は」「俺が決めることじゃない」という影山の独白に泣いてしまった。戴冠後の影山が気付き選んだセッターとしてのあり方は、今どの選手がどんな状態か把握した上でその選手に託すと選ぶということ、その先は託したスパイカーに選ばせること、そしてその選択肢を常に目一杯広く用意すること。

「超インナーを見せてから僅かに・でも確実にクロスに引っ張られてきたブロック」これがめちゃくちゃ好き。思い出すのはやっぱり白鳥沢戦・「ひとセット丸々 或いはそれ以上かける "罠"」。そして「極上ラインショット」。1セット目から田中に感情移入して見てた男の子たちがうおーっ!と興奮している様子なのも嬉しいし、何よりいつも元気いっぱいな冴子さんが目に涙を浮かべ静かに喜んでいるので泣いちゃうよ〜。そして喜びを分かち合う烏野メンバーと対照的に、1人静かに手を合わせ佇む影山。

「脅迫」と書いて信頼と読ませることと、及川の「問答無用で無慈悲な信頼」。影山の「脅迫(しんらい)に応えて見せろ」と及川の「信じてるよお前ら」「冗談のようで或いは脅迫のようでもあって」。田中の「あれは"励まし"なんかじゃねえ」と青城の「こればかりは何の裏もない言葉だと皆知っている」。2人がそれぞれのペースでそれぞれの過程を辿って、それぞれの課題を乗り越えて、そして今、こうやって明確に重なる部分が見えてきているのがぐっときてしまう。田中にトスを上げたその時辿った思考や指先の感覚や、そういうものを全部閉じ込めるみたいに両手を合わせる。祈りや敬意、感謝、それから「2つのものを1つに合わせること」という意味の中には、王様時代とおりこうさん時代のどちらも決して否定せずなかったことにせず、その両方ともを合わせた結果が今、両方があったからこその今、というのがあるように思える。

そして「静かなる王の誕生」を目撃した侑が、「飛雄くん」を「こいつ」と呼び替えてしまうくらいのイラつきや焦りや余裕のなさを全く隠そうともせず、むき出しのままいることを厭わない、そういうところがめちゃくちゃに好きだ〜!何週か前、自分たちのびっくりプレーからのアランくんのスパイクの成功を思って浮かべた満面の笑みを直後日向のディグによって歪めることを、そういう表情をすることを決して躊躇わない、そういうところもまたそう。「おりこうさんよな」と影山に言った侑は、おりこうさんにならざるを得ない状況を自分は知らないこと・それは(侑のルーツが打たしたるにあったことの他に)片割れの存在があったからだということ、そういうのに俯瞰して気付くことはなかったし、それでいいんだろうなとも思う。ただ、それに気付かない(多分気付かなくたっていい)侑が影山に「おりこうさん」だと言ったことが、影山が戴冠式を迎えるための(おりこうさん脱却のための)気付きのきっかけの一つになったっていうのはやっぱめちゃくちゃエモい。そして侑が環境的に恵まれていたことも影山に辛い時代があったことも、それ自体によって何かが決定されるわけじゃない、それはポジティブな意味でもネガティブな意味でもそうなんだと思う。そして、侑が影山とセッターとして同質である必要は全くないというのは当然分かった上で、今回の影山でいう「選手の状態を把握する」っていう部分から、侑は何か気付きがあったらいいなと思う。それは影山のようになるべきということでは決してなくて、中学時代〜高校の回想を見た上で、今試合影山が得たものと現状侑に欠如しているものって重なる部分があるのかなと思うから。

そして「静かなる王の誕生」を見ていたもう1人のセッター。高校バレーを一足先に抜けたこの人が今、影山が何かを得たことに気付いて、それでも「ハンッッ」って再び駆け出していける強さをもう持ってる、146話以後の及川は絶対そうなんだよね、それがやっぱり嬉しい。この試合の決着を見なかったことに関しては、あれを見た及川もまた自分の道をひたすらに走っていく、走っていくほかないというのが全てだなと思う。及川自身が高校の先の道を走っていく上でもう今試合今大会の烏野の・影山の勝敗って重要なことじゃないんじゃないかな。

そして烏野サーブ・影山。ミスをしないようにとか甘いボールを入れようとか、そんなこと一切考えない、考えつきすらしないだろうなってことがなんだか誇らしい。ここブレイクでデュースだけど、やっぱり影山のいいサーブが見たいなぁ。