ハイキュー‼︎第284話「ツナグ」

1セットの最後、不調の状態から自分の力で持ち直して最高の1点を決めた田中だけど、その後も大活躍が続くかといえばそうではなく、大耳はしっかりくっついてくるし、1セット最後以降は気持ちいい一打がガンガン決まるという感じではない。田中もそれを自覚して、強打を決めることを狙うだけではなくてフェイントを選択したりもしてる。そして、調子が良くて「いつもより見える気がする」からこそ、一歩引いた「これ以上強引に行くな」という冷静な視点が出てくる。強化合宿で、身体が動くままではなくあれやこれやと思考を巡らせてレシーブのきっかけに思い至った日向がいたように(そして今試合それが実を結んだように)、「こわいと思っている」と自分を俯瞰する西谷が侑のジャンフロをオーバーで取ることに成功したように、この試合では烏野の中でも多分熱くガーッといくタイプの子たちが、一歩引いた冷静な視点から各々の課題だったプレーを成功させてひと回りもふた回りも大きくなっているようなところがあるように思う。強引にいこうと思えばいけちゃうような場面もきっと田中には多くあるんだけど、彼がもうひと回り成長するためには冷静に自分を俯瞰して多くの選択肢の中からもっとも有効な一つを選ぶっていうことができるようになる必要があったりするのかな。そして田中は影山に自分の本数を減らすよう告げる。


旭さんサーブ3回め。ボールはネットを掠め、稲荷崎コート前方へ。赤木がなんとか上げるけど、月島がすかさずシャットアウト。「勝利の女神烏野に振り向くー‼︎!」って実況の言葉に白布が「女神は関係ねえ」と不満を見せているのが面白い。白布は月島のプレーが偶然やラッキーなんかではなく必然だってことを多分身を以て分かってる。し、そもそもこういう抽象的なフワフワしたのって好きじゃなさそう。烏野が取り返したかと思いきや、すぐさま稲荷崎に取り返される。


治サーブ。8秒。夜久さんが「きらいだ」と言ってることでもうこの「間」の有効さがよく分かる。嫌いだと言われることは選手にとっては最高の賛辞だよね。飯の時間の次にこの8秒間が好きだという治は、この8秒間のどんなところに魅力を感じているんだろう。みんなが自分に注目し意識を張り巡らせている8秒を明けボールを放り・叩く時の、世界を動かすような感覚があったりするのかな。烏野はその治のサーブに乱されながらも、影山はしっかりセッターを狙って返していく。こういう細かいところから戦略的に、意図を持ってやれるってことが上手さなんだろうなとすごく思う。


「こいつらはやる」「お前らもそう思うやろ?」というモノローグが誰のものかわからないけど、多分稲荷崎全員のものなんだよね。稲荷崎のこういうコンセプトの恐らく先頭に立っているであろう監督とか、自分たちの横断幕を好きやないと言い切る北くん、そしていつもコンセプトのど真ん中にいる双子、その全員が「こいつらはやる」こと、そして「相手もそう思うだろうということ」が自分たちの強みだって分かってる。このあたりがやっぱり白鳥沢戦における烏野と少し重なるような気もして、場面は違えど川西に「こいつら絶対打ってきます」と言わしめたラストラリーの烏野を思い出した。


そしてそれを利用して稲荷崎がこの時選んだのはアランくん。強力な選択肢をいっぱい相手にぶつけて、それを全部囮にして選択される攻撃が五本の指のアランくんのスパイクだっていう、そもそもの稲荷崎の個々の力の強さがやっぱり凄い。し、アランくんが双子の無茶についていくのも凄いんだよね。(そして先週大地さんと自分が本当は少し違ったことに気付きながら、自分がコートに立つ意味や価値を見失わず、フォローの体勢に入っている北くんがやっぱりいい。)


大地さんのファーストタッチが少し乱されてAパス貰えないながらもしっかりきっちりいいトス上げていく影山がやっぱりすごい。ブロック3枚相手にしっかり打ち切る田中。ここで日向のディグを回想してるのは、日向のあのディグによって士気を高めている人筆頭、みたいなことなんだろうか。まだわからないかも。


そして侑のツー。やっぱりツーアタックというプレーがめちゃくちゃ好き。どの学校のどのセッターでも、ここぞという場面で相手を出し抜く1点を生み出す「専門外の」セッターのプレーが見てて本当に気持ちいい。


そして北くんはコートを出る。この試合北くんはもうコートには入れない、そのことになんだか泣きそうになる。こんなの、北くんの「次」が見たい、3回戦でコートに立っていてほしいと思っちゃうよ。そして手を叩き合ったアランくんのサーブは烏野を崩し、北くんに代わって入った銀島のダイレクトで稲荷崎の得点。小さいけど北くんの誇らしそうな嬉しそうな表情がいい。今週のタイトル「ツナグ」は春高ポスターにも、ここにもつながってる。稲荷崎マッチポイント。烏野はこういうギリギリの場面に何度も立ち会っているような気もするんだけど、春高の青城戦では烏野は先に掴んだマッチポイントのすぐ後のラリーを制して勝利を収めているし、白鳥沢戦では1点差で白鳥沢が先に掴んだマッチポイントの後の長い長いデュースの末に烏野の勝利をもって試合を決しているわけで、「2点差」で相手のマッチポイントという状況はなかなかキツイ。烏野がサイドアウトを取ってブレイクするまでに稲荷崎が1点でも取れば烏野の春はここで終わっちゃう、その場面で、烏野はもう今更諦めかけたり落ち込んだり気を取られている暇すらもうないし、そういうの全部、日向のディグからのラリーを決められなかったあの時にもう全部手放してきてるんだよね。その今、「もっと頑張れ」って発破をかけてくれるのが、烏野と今まで戦ってきた宮城の子たちである、っていうのがもうたまらない。伊達工に関しても、彼らがまさに「この今」必死に練習してることが「発破をかける」ことに相当しているという描かれ方がまたいいんだよね〜…。普段から練習からの過程、1点1点という過程を緻密に描いている作品だからこそ、「とにかく頑張れ」っていうシンプルな言葉の熱さが際立ってる。2度目のアランくんのサーブ、今度は旭さんがしっかり上げていく。この試合では両エースが終始相手を狙っていってるのも熱い。冒頭の回想の「本数減らしてくれ」はミスリード(というか、私が勝手に影山はそれを受け入れたと勘違いしてただけかもしれないけど)で、ずっとスパイカーの要求を「わかった」と一方的に呑んでいた影山は今度は「いいえ」と答える。次の一本影山は絶対田中に上げる。それが点になるかどうかということすら一先ずどうでもよくて、影山が「今田中さんの変数を減らす必要はない」と判断し、それを伝えたということがもうめちゃくちゃ熱いし素晴らしいこと。明確に「戴冠式以降」の影山なんだよね。ひとまずは、影山がそれを選び取ることができたということが本当に嬉しい。影山がそう判断するに足る根拠みたいなものが、来週以降の田中のプレーから見れるのかなと思うとそれも楽しみ。時系列的には、「ビリビリくるぜ」の場面で田中がしっかり打ちきれたことも既にそれに相当するものになってるんだと思うけど、その場面の「ナイスキー」の影山の表情、そして「強引に行くべきじゃないかもしれない」と独白している田中のことを思うと、もう一山ありそう。烏野はここ田中の攻撃でサイドアウト取って、影山のサーブでブレイク、というところからデュースに入りそうな予感。熱かった稲荷崎戦も本当にもうそろそろ。烏野の先が見られますようにという願いと同じくらい、北くんの春がまだ続きますようにと思ってしまうのがまた苦しい。今年も1年ハイキュー楽しみです。おしまい