ハイキュー‼︎第280話「コンセプト」

侑を見つめる理石。1度目の中途半端なサーブを悔やむ彼をもう1度コートに入れる稲荷崎の監督もやっぱりすごい。常に挑戦を、常に新しいことを、という姿勢はこれまでは主に烏野を通して描かれてたけど、実際に全国トップの成績を残している稲荷崎において描かれるとまた説得力がある。侑の姿を見、監督の言葉を受けてどこか吹っ切れた様子の理石のサーブは烏野コートへ落ちる。稲荷崎応援団の声援と理石のガッツポーズ。烏野を応援している身ながら、こういうのはやっぱりうれしいなー。

大地さんの「稲荷崎応援団は全員が"もみあげのおっさん"」っていうの、言い得て妙。そしてもみあげのおっさんが烏野食堂で他のおじさんたちと一緒にTVで試合を見てるのもいいなー。2回戦だと地上波ではやらないかな?烏野食堂はCSとか契約して流してるのかなー。

理石2回目のサーブはしっかり烏野を崩し、アランくんのダイレクト。稲荷崎は烏野に追いつく。そして理石3回目のサーブ。「サーブトス、良い」からの、大地さんがしっかり上げる。北くんが映るのがいいね。稲荷崎における北くんのあり方と、烏野における大地さんのあり方はもちろん違うけど、烏野の主将もやっぱり頼もしい。月島が打ち烏野が点を取り返す。

1度目にピンチサーバーで入った時の苦い表情はもうなくて、コートを出ても尚ドキドキしながらも、3度ボールを叩いたその手を見つめぐっと握る。理石にとって1度目の全国、春高の記憶が苦い記憶のまま終わらず、こうして自分で掴みとった成功体験と共にこれからの彼の原動力になるであろうことがやっぱり嬉しい。そしてぐっと握られた理石の拳から、今度は旭さんが同じように拳を握り、離す描写に繋がるのもいい。旭さんのは以前コーチが教えてくれた緊張を解きほぐすためのやり方。サーブはギリギリアウトになったけど、確実に意味のあるアウトだっていうのがよく分かる。「攻めて来よんなー!」と評価するのが烏野じゃなく稲荷崎贔屓のおじさんっていうのもいい。

治サーブ。旭さんに向けてしっかり打ってくる。田中は今試合自分の力でぐいぐい調子を上げて来て特訓していたインナースパイクも稲荷崎相手に決めてるけど、「付け焼き刃」っていうように稲荷崎の方から言及されるのは嫌味がないというか、フェアでいいなと思う。派手でドラマティックな描写を以って活躍が描かれたとしても、当然無敵の必殺技になるわけじゃないっていう感じ。「木兎の弱小版に過ぎん」と、木兎さんの名前が出たことも梟谷贔屓の身にとっては嬉しい。稲荷崎は梟谷と試合したことあるのかなー。木兎のインナースパイク習得はいつだったんだろう。夏合宿ではまぐれというように言っていたけどどうかな。赤葦の発言を見るに、少なくともここ2年はないのかなとか思うけど。どうだろう。田中を止めた大耳に角名が「オッホホ」と声を出しているのに笑う。ちょっとキモくてそれがいい。この大耳のブロックが所謂恐いブロックで、同時に角名の望むブロックなんだろうな。

稲荷崎が先に13点に到達し、コートチェンジ。京谷がチッと舌打ちをしてるの、いい。かわいい。

穴原監督が試合を見て解説を担当しているのは、条善寺も稲荷崎っぽいところがあるからかなー。条善寺は「楽しむ」「遊ぶ」というそれ自体が「目的」って面が強くて、稲荷崎がどんどん挑戦していくのは「手段」として、ってイメージがなんとなくあるのでちょっと違うかな。どっちかというと条善寺というより穴原監督のイメージが稲荷崎と似てるなって方が強いかな。稲荷崎はとにかく挑戦挑戦でガンガン攻めていって、それが最もハマった時の爆発力は凄まじいけど、それが噛み合わない場合も多々あるという感じ。ただ、裏目に出ることがあったとしても攻める姿勢は曲げない、ってやってきたことで2位まで上り詰めたチームなんだろうな。進化の途中の烏野が夏合宿で「あいつら大丈夫か?」と言われたのと同じことを本番の試合でもどんどん試すような。その大前提にあるのは個々の実力の高さなんだろうなという感じはする。それが出来るだけの土壌がしっかり出来てるからこその攻めっぷり、というイメージ。

稲荷崎メンバーによる独白がいい。「昨日」の成績は2位でも3位でも同じこと。過去を蔑ろにするんじゃなくて、既にそれは今の自分たちを構成する筋肉という一部分になってて、彼らが見るのはただ今であり、今日。北くんが言った「過程が今の自分を構成している」ってことを稲荷崎の子たちはみんな知ってて、北くんはそれ自体に価値を見出すけど、稲荷崎メンバーはその上で「今日」という結果がすべてだと言う。

ラストを任された影山はしっかり侑を狙う。けど、という。セッターのファーストタッチで単調な攻撃になると全員が予想したこの場面で、「今日」彼らが選んだのは、治のトスからのマイナステンポの攻撃、打つのは侑。そして稲荷崎メンバーの背後の横断幕に書かれた言葉は「思い出なんかいらん」。かっこよすぎるよ。このための関西弁かと思うほどにハマっているのもあって。稲荷崎は「昨日」2位になったこととか最強の挑戦者と呼ばれていることなんか全て「いらん」と跳ね除けて、見ているものはみんな「今日」だけ。過去の栄光をさっさと養分にまでしてしまって、ぐんぐんと2位にまで上り詰めてきた稲荷崎のプライドとか、強さの理由みたいなものをこれ以上なく表現した言葉なんだなぁ。好きだ…。これって、昨日掴んだ栄光を既に過去にしてしまう潔さとか、「2位」にこれっぽっちも満足してないこととか(多分1位になってないからとかじゃなくて、1位という結果を掴んだとしてもそれすら昨日のことだと言ってしまえるんだと思う)の他に、「思い出作りで来てるんじゃない」みたいなニュアンスも感じて、なんというか稲荷崎を見ていると「部活って何だろう」みたいなことを考える。思い出なんかいらん、というコンセプトを背負った高校の部活ってやっぱりすごい重いよね。部活としてギリギリだなって感じがする。思い起こせば序盤に描かれた応援のくだりとかブーイングとかも。稲荷崎は色々な面でギリギリ部活の範囲。それに関してはこの試合が終わって、稲荷崎の子たちのことが描かれきったらまた考えたいなー。

とにかく今週は稲荷崎の圧倒的なかっこよさ。烏野贔屓の身としては苦しいけどそれがまた気持ちいい。来週、表紙と巻頭カラー!楽しみ!