ハイキュー!!第279話「愛」

宮兄弟幼少時代。アランくんの目を通して語られるっていうのがいい。ハイキューの過去編は、誰か1人にスポットを当てて掘り下げながらも、チームのほかの子たちとのやりとりなんかを見ているうちに、その時スポットが当たっていない彼らのこともよく分かってくる。アランくんは心の中でめっちゃ突っ込む。めっちゃかわいい。「横文字の名前」に反応している双子もかわいい。2人に名前をつけたのはバァちゃんらしい。稲荷崎戦はおじいちゃん・おばあちゃんがわりと出てくるねー。北くんのおばあちゃんに、西谷のおじいちゃん。意図的かなぁ。ただ稲荷崎の雰囲気とおじいちゃん・おばあちゃんのエピソードってなんだか親和性が高いなって気もする。なんとなく、としか言いようないんだけど、強いて言うなら方言のあたたかみとかカントリー感というか。幼少時代の宮兄弟は、現在の彼らより「同じ顔」をしてる感じがする。まぁ現在の侑はより表情豊かで、治は侑と比べるとそうでもないっていうのがあるかな。治の方がどことなく落ち着いたイメージがあるけど(多分実際のところは思っているよりそうでもないと思うんだけど、描かれている分のイメージとして。)子どもの頃の治は侑と同じく年相応に子どもっぽい、っていうギャップみたいなのもある。「サムツム」呼びの理由もここで明かされる。この会話の直後からもう「ツム」って呼び方になってるっていうのも、今もその呼び方が続いているっていうのもかわいい。「ツム」呼びに「かっこええな…!」という声が漏れたところで、アランくんも耐え切れずツッコミを口に出しちゃう。めっちゃかわいいわー。なんだこれ。彼のルーツも知りたくなってくる。

 

「ジバ」は2004年アテネ五輪でブラジル代表として金メダルを獲り、同時に最優秀選手賞を受賞したWSの選手みたい。2004年は宮兄弟が3年生の時かな?影山は確か小2からバレーを始めたと言っていたけど、宮兄弟も同じくらいのときにはもう始めてそうだなー。教室に教えに来たこのセッター犬原さんは猫田さんのもじりだろうか。侑はここで、「上手い」セッターが「打たしたる」かっこよさに気付く。

 

野狐中学時代の宮兄弟。野狐っていうのは狐の妖怪の1番位の低いものを言うらしい。狐のこどもみたいな2人の、ネット越しの顔がこわくていい。妖怪感あるよね。そしてこの頃「どちらかと言えば治の方が一枚上手」。ただアランくんによれば、侑は「負けず嫌いで収まらない何かがある」ような気がした、と。壁に向かって、また寝転んで、トスを練習するコマでは、効果音が秩序よく綺麗にならんでいるのが印象的。のめり込むように自主練に時間を注ぐ侑の様子がよくわかる。はじめはどちらかと言えば一枚上手だった治がセッターを任されたけど、今度は侑がセッターを任される。「黙って悔しがらない」治は、なんとなくこの時点で性格出てきたなって感じがする。

 

「俺のセットに不満あった??」「…いや別に…」「じゃあ何で決められへんの??」中学時代のチームメイトとの対立、みたいな点では影山と重なるんだけど、やっぱり影山とはちょっと違う。王様と呼ばれた影山のトスは、自分がやりたいタイミング、やりたい速さの攻撃を叶える影山のためのトス。対して侑はというと、この回を見た限り、スパイカーから見ても一応不満はないトス。これって侑のセッターとしてのルーツが「打たせたる」にある、っていうのが大きいんじゃないかな。侑のセットアップ自体はきっとスパイカーにとっていいトスではあるんだけど、それを決められないのは、その時のスパイカーの調子、あるいは能力の問題とっていうのがあるんだと思う。ただ「自分の調子がいいのにスパイカーの調子が悪くて決められない」ことを一方的にスパイカーに当たるというのはやはり傲慢で、そこに意思疎通をとる努力や歩み寄りがあるべきなんだと思う。お互いに。「じゃあ何で決められへんの??」という言葉に対して、「こうだから決められない」って反論を、スパイカーたちも直接していないし、言えるような関係を築けていなかった、あるいは侑が聞く耳を持たなかったんだろうなという感じがする。そう思うと、中学時代の影山というよりはむしろ、伊達工戦で旭さんに「じゃあ決めてくださいよ」と発言した影山に近いように感じる。「おりこうさん」時代のスパイカーの要望に自分が全て合わせる形の影山とは真逆のベクトルで、だけど同じ軸の問題を抱えていたのかな、という印象。

 

「ツム嫌われとるで」となんでもないように言う治。双子っぽい、というか身内っぽい。食べ方はいっしょだけど、他人や仲間に嫌われても気にもしない侑と、そうはならんと心に決める治はもう完全に別人格。いや当たり前だけど。

 

そして高校。以前、風邪でも練習に参加しようとした侑に熱いなぁというように反応していた銀島は、ここでも結構熱い子っぽい。それを「熱」と一歩引いた目で見る角名っていうのもだんだんキャラクターがわかってきたような感じ。治相手にも「ポンコツ」と食ってかかる侑。「俺のセットで打てへんやつはただのポンコツや」っていうのは、俺のトスで打てないスパイカーはいない・それほどまでにスパイカーに打たせるトスを上げている自負がある、って表現だと思っていたけど、中学時代の傲慢な部分を高校でもまだ引きずってるっていうのはやっぱりあるんだなー。「打たせたる」トス上げてるのに、っていう。「ここまで(トスを最良の場所に最高の形で持っていくまで)が俺の範囲」っていうのをしっかり弁えていて、その上で「スパイカーの範囲」においては自分に対する厳しさと同じくらい、スパイカーに対しても厳しく結果を求める。初期に西谷が「俺が繋いだボールを勝手に諦めるのは許さねえよ」と旭さんに発言したことがあったけど、セッターとかリベロって繋ぐポジションであって、直接点をとるっていうことはほとんどしない(セッターは一応それもできるけど、メインの働きとしては「託す」ポジションだと思う。)し、やっぱりもどかしい場面はあるのかも。自分がどんなに調子が良くったってスパイカーが決めなきゃ点数にはならないわけで。もちろんそれが面白さでもあるんだろうけど。

 

ただ、治は言われっぱなしで終わらない。「この暴言クソブターッ!!!!」のあまりの勢いの良さに朝5時から笑ってしまった。暴言のレパートリーまで同じなんだね。そしてすかさずスマホを取り出す角名の「っぽさ」がすごい。めちゃくちゃわかるもん。ここにいないのに存在感のある北くんもいい。「北どこや!?」って、めちゃくちゃわかるもんね。そして治の主張は正論だよね。当たり前のことだけど。侑にとって治がいてよかったのって、身内ゆえに全力で全身でこんなふうにぶつかっていけるということと、身内ゆえに「ウイイレやるか?」ってそれだけで元通りになっていけることだなって思った。バレー部名物になってるくらいだから頻繁にあることなんだろうし、チームメイトの反応も慣れきった様子。侑がこんなふうな態度をとり続けてチームから浮いたとて、「浮いていること」それ自体は気に留めないんだろうと思うけど、チームにとっても、侑のやりたいバレーにとっても「侑がチームから浮く」ことってやっぱりいいことではないし。侑は気づいてないかも知れないし、治だって侑のためにやってることじゃないけど、傍から見ていて、侑の隣に治がいることってやっぱり幸運だったなとは思う。

 

1人ユースに呼ばれた侑。悔しがらない治に不満げ。「侑の方が俺よりちょびっとだけバレーボール愛しとるからな」。ここって、「ちょっと頭オカシイ」奴っていうのが「ちょびっとだけバレーボール愛してる」に重なるんだと思うし、侑の場合それは「負けず嫌いでは収まらない何か」という形で出力されてるんだと思う。それを治は、ちょびっとだけ自分と差のあるバレーボールへの「愛」って呼んでるんだよね。治は自分と侑とで実力は変わらないと思ってるし、自分のがんばりが足りてないとかそういうふうに思ってるわけじゃない。自分に対する自信とか自負とかそういうのがあった上で、侑が何か持ってるのを認めてる。今までずっといっしょに、同じ環境で育ってきて、もともとの実力も多分同等ぐらい。そこに更に侑が持っているものがあるっていうのを知っている。(でも多分同様に、自分が持っているものがあるっていうのもちゃんと知ってるんじゃないかなぁ)「あんま悔しいと思てへん事が悔しい」って、侑は多分言わないし、治は言った。その違いは侑の持っているものであり、同時に治の持っているものでもあるんじゃないかなぁ。

 

山口のサーブから。しっかりアランくんを崩す。山口が当たり前のようにいいサーブを打ってるのが熱い。シンクロ攻撃が小さなコマで描かれているっていうのもぐっとくる。烏野にとってもう特別な攻撃じゃない。そして侑の潜り込みオーバーのトス。これがすごいプレーだってことがもうわかる。TVで試合を見てても、こんなプレーってそうそう見ない気がする。コーチ、スガさんとセッターたちの表情が映されるのも熱い。そして静かな影山。コーチが相手のプレーながら立ち上がり拍手をしているのがいいよねぇ。コーチがセッターだったっていうのが結構要所要所で入ってくるのが好き。スパイカーすら「そこまでしなくても」という、苦しい体勢でのオーバーのトス。侑がそれにこだわる理由は「よりいっぱいのモンで支えたんねん」「セッターやもん」という、極めてシンプルなもの。これを治はきっと愛って呼んでるんだよね。「スパイカーに対して誰より真摯で献身的である」ことは、スパイカーを甘やかし優しくすることではなくて、自分の最大限を持ってスパイカーに託すこと。自分に対する厳しさの分だけスパイカーにも求める。それを解説する研磨もいい。研磨の場合は「できない理由」として語られるっていうのが彼らしい。

 

星海を見た日向と同じセリフを口にする影山。「俺もここに来れてよかった」。セリフと裏腹に、静かで冷たい。のみこんでもっともっと大きくなろうとしてるみたいな。点数としては烏野がまだリードしてるけど、どうなるかな。まだまだ影山がでっかくなりそう。